しっぽや5(go)

□楽しい夏休み〈番外編〉秘密の夏休み
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side<TAKESI>

夏休みの最後の週、久しぶりに先輩達と揃ってのしっぽやバイトになった。
「何かバタバタしてて、中々会えなかったな」
「そういえば夏休み中に3人揃って会うの、今日で4回目くらいじゃない?」
「普通に学校ある時より会ってなかった感じですよね」
俺の言葉に先輩達は驚いた顔をした後、納得の表情を浮かべていた。
「んじゃ、久々に会う後輩にお土産
 お茶の時間に開けようぜ」
日野先輩に手渡された紙袋はずしりと重かった。
「ミイちゃんのお屋敷に行く途中の道の駅で買ったんだ
 ベタな土産物が多いけど、旅先で見ると思わず手に取っちゃうんだよね
 帰りもちょっとだけ寄って来ちゃった」
荒木先輩も紙袋を手渡してくる。

「ありがとうございます
 そっか、2人もお屋敷に行ったんですよね
 皆元気でした?風邪とかひきそうにない犬達ばかりだけど」
「元気元気、料理番の飯も最高に美味かった」
日野先輩が舌なめずりしながら遠い目をした。
お屋敷の食事を思い出しているのだろう。
「今回、凄い珍しい体験できたよ
 化生が生まれるところに立ち会ったんだ、生まれるというか隧道から出てくるとこ
 今回の新入りはグレート・デーンの『伊古田(いこた)』って言って、凄く大きいんだよ
 でも優しくて健気な子でさ
 もうちょっと他の犬に慣れたら、こっちに来ると思う
 前に白久が使ってた部屋に住んでもらう予定だよ」
「見た目厳(いか)ついけど繊細な子だから優しくしてやってくれ
 最初、空と大麻生にはビビりそうだな
 新郷にもあまりギャンギャン言わないよう前もって言っといた方がいいか」
「猫は大丈夫かな、向こうで波久礼が教育すると思うから
 でもさあ…」
「ああ、無垢な奴が下手に教育されすぎると猫神2号が誕生する危険があるな
 生前猫との関わりはなかったみたいだし、大丈夫だと信じたい」
先輩達は神妙な顔で話し合っていた。

「グレート・デーンってメチャ大きい犬でしょ?
 ひろせは大型犬好きだから大丈夫だけど、他の猫には前情報流しといた方が良いんじゃ」
俺の言葉に
「いや、伊古田は本当に優しくて良い子なんだ
 むしろ、猫の方が気が強いときある」
「グレート・デーンは『優しい巨人』とも称されて、他の動物とも仲良くできるんだぜ
 でも、猫が伊古田を驚かさないよう前情報を入れておくのは良いかもな
 足音忍ばせた猫が急に現れたら、伊古田、腰抜かすかもしれない」
2人の先輩は新入り贔屓な発言をしていた。
それから伊古田の生前を教えてくれる。
その波乱に満ちた過去は心を打たれるに十分なもので、俺も彼がここに来たら優しくしてやらねばと使命に燃えるのだった。



「そういえばお前も俺達より先にお屋敷に行ってたんだよな
 修行、とかやってきたんだろ?成果の程はどうなんだ?
 ナリくらいのパワー、というか鋭さは身についたのか?」
「筋肉は育ったの?武衆の犬達と買い出しに行くだけで、かなり山の中走りそうだけど
 見た目はそんなに変わってないような」
先輩達に突っ込まれ
「まあ、色々あったというか
 今日は依頼も少ないし、お茶でもしながら話しますよ
 もらったお土産開けましょう」
所長である黒谷が頷いて控え室を指さしてくれたのを見て、俺は紙袋を持って移動する。
水出ししておいた濃いめの紅茶にミルクをたっぷり入れたミルクティーを作り、お土産のご当地クッキーとご当地饅頭の箱を開けると俺は思い出深い一夏(ひとなつ)のことを話し始めた。
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