しっぽや5(go)

□自分だけの居場所
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明戸の文机が置いてあった部屋の荷物は全て運び出され、今はもう何も残っていない。
こちらも念入りに掃除をし、荒木と2人でテーブルを運び込んだ。
「もうテーブル運んじゃって良いの?双子がご飯食べるときとか困らない?」
心配そうな荒木に
「部屋を移るまで、カフェワゴンで食べるそうです
 料理を一度に運べるようにと、皆野が新居用に買ったらしいですよ
 猫は案外新しいもの好きですから、どんな感じなのか早く使ってみたいのでしょう
 私達は今まで使っていたトレイで運べば十分ですね」
私は笑ってそう答えた。

「先にテーブルを入れてしまいましたが、床に何か敷かなくて大丈夫でしたか?」
「冬になって寒かったらラグとか考えてみるけど、フローリングの方が掃除が楽かなって思ってさ
 このマンションって、暖房利くし全面に何か敷かなくても大丈夫じゃない?
 リビング用のラグは買ったしね
 家具は淡い色合いの物を選んでるから、モッチーのとこみたいにビシッと格好良く無いけどナリのとこみたいにホッと出来る空間になるよ」
荒木は嬉しそうにリビングを振り返って見ているが、私にとっては荒木の側こそがホッと出来る場所だった。


作業にキリがついたところで双子が部屋に戻ってきた。
「テーブル移動させてくれたんだ、明日、カフェワゴンが届くから早速使えるよ
 お、食器棚の中がスッキリしたな」
明戸がキッチンを見回した。
「敷いてある布の色が違うだけで、違う棚に見えますね
 私は新しい物は淡い空色にしてみました
 あの棚に揃いの食器を入れるのが楽しみです」
『手伝ってくれてありがとう』と双子にお礼を言われ
「俺達も、ここに住むの楽しみだから手伝うのは当然だよ」
荒木は照れた笑顔で答えていた。


双子の部屋から自分達の部屋に戻ると
「うーん、やっぱまだこっちの方が『帰ってきた』って気持ちになるな
 思い出の差だね」
荒木はくつろいだ表情を見せた。
「私の部屋が荒木にとって落ち着ける場所になって嬉しいです
 飼い主になって欲しい方を初めて迎え入れたこの部屋は、私にとっても思い出深い場所ですから
 けれども荒木の側こそが私の居場所です
 かけがえのない私だけの居場所なんです」
私は荒木を抱きしめて思いを告げる。
荒木も私の背中に腕を回し抱きしめ返してくれた。

「掃除したから汗かいたしホコリっぽくなっちゃったね
 シャワー浴びよっか」
荒木の期待するような声に体が先に反応してしまう。
「一緒に浴びて、まずはそこで、ですね」
荒木の耳元に囁くと、彼は小さく頷いて私をいっそう強く抱きしめた。


2人でシャワールームに移動する。
体のホコリをざっと流してすぐ、私たちはお互いの唇を貪(むさぼ)り合い、反応しているお互いを刺激しあうよう腰をすり付けていた。
「白久…白久…、き…て…」
荒木に掠れた声で命令され、私は後ろから彼を貫いた。
既に高ぶっていた荒木は私が手で刺激を送るまでもなく、愛を解放する。
私も最初から飛ばしていたため、程なく荒木の中に想いを解き放っていた。

「この場所でするの、これが最後かもしれないと思うと何か興奮しちゃった
 引っ越しまでに、まだする機会あるかな」
軽いキスを交わしながら荒木が頬を染める。
「私も同じ事を考えていました
 ここでは2人で温泉旅行も楽しみましたね
 初めてシャンプーしていただいたのも、ここでした
 犬の頃は散歩のついでに川で水浴びをするくらいだったので、飼い主に洗っていただける事が夢のようでしたよ
 ただ、気持ちよくなりすぎるのが難点ですね
 体を洗うより、別のことがしたくなる」
少し深いキスをすると、荒木もそれに応えてくれた。
「洗う前にもう一回して、そしたらシャンプーしてあげる」
飼い主の命令は私にとって嬉しいものであった。
「かしこまりました」
私の返事に満足そうな顔になる飼い主が愛おしくて、放ったばかりの体の中心が熱くなっていく。

その後私は、飼い主を満足させるために何度も頑張るのであった。



2人でベッドに潜り込んだときには、とっくに日付が変わっていた。
「このベッドで寝るの、あと何回だろう
 こっちでもしたかったけど、流石に眠くて限界」
「最後の荷物を運び込む前日にしましょうか
 ベッドマットは交換するとゲンが言っていました
 スプリングが壊れるほど頑張っても良いということですね」
冗談めかした私の言葉に、荒木は照れたように笑ってくれた。
「シーツ類や掛け布団は持って行こうか、次の化生も新しい物の方が良いよね
 持ってくシーツはソファーカバー代わりに暫く使おう
 布団は丸めればクッションぽく使えるかも」
「取りあえず持って行って、使えるかどうか確認するのも面白そうですね
 荒木のアイデア溢れる部屋になりそうで楽しみです」

私たちは語り疲れて眠りに落ちるまで、次の居場所、新しいテリトリーについて想像を膨らませるのであった。


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