しっぽや5(go)

□自分だけの居場所
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ゴマだれが完成し、茹で上がった素麺やソバを冷やしていると黒谷の気配が玄関先に感じられた。
「荷物が多いかもしれないので、迎えに行ってきます」
私が言うと
「流石、長年の付き合いがある友ですね
 黒谷の気配、言われるまで気が付きませんでした
 こちらは器に盛りつけるだけなので、大丈夫ですよ」
皆野は微笑んでそう言ってくれる。
「荒木、夕飯が出来上がりましたので作業は中断してください
 私は天プラを、っと、クロを迎えにいきます」
飼い主にも声をかけると
「揚げたて天プラ楽しみ!」
「口の中火傷しないように気をつけないとな」
2人はすぐにリビングのテーブルに移動して食器類を用意していた。

ドアを開けると天プラが山盛りにのっている大皿を持った黒谷が笑顔で立っている。
「開けてくれると思ってたよ」
「長年の友ですからね行動の予測は付きます
 しかし、こんなに大きなお皿持ってましたっけ」
黒谷が持っている物は、私が持っている大皿より3回りほど大きそうだ。
「日野のために買ったんだ
 これにチャーハンとかパスタとか山盛りに盛って、2人で一緒に食べるのが良いんだよ
 飼い主のお相伴に預かってる気分を味わえてさ」
「成る程、私も荒木とやってみます
 部屋にある物より、もう少し大きいお皿を買わなくては」
リビングに移動する間、私は黒谷に食器を扱っているお店の情報を教えてもらった。


「すげー!俺達2人でもこんなに揚げたことないぜ」
明戸が黒谷の持っている大皿を見て目を見開いていた。
「荒木の好みに合わせてエビ天と小エビの掻き揚げを作ってきたよ
 後はピーマン、椎茸、大葉、ナス、ヤングコーン、タマネギと人参の掻き揚げ、長ネギと小女子の掻き揚げ
 何だか、野菜ばっかりになっちゃった」
「どれも美味しそう!」
「どうぞ皆さん、座ってください
 椅子が4つですが、私と明戸は2人で1つでかまいませんので
 昔は1枚の座布団で一緒に寝たものです」
皆野の言葉で、私たちは席に着いた。
言葉通り双子は器用に1つの椅子に腰掛けている。
「犬にはちょっと無理っぽいね」
双子を見て感心しよう言う黒谷の言葉には同意しかなかった。

「成る程、直座りだと人数増えたときの応用がきくか
 ソファ買ったからローテーブルにしたの正解だったね
 追加でクッション買っておこう
 実際の部屋を前もって試して使えるって、凄い便利」
「他にも何かご所望の品がありましたら、何でも言ってください
 一緒に買いに行けるのが楽しみです」
荒木と暮らす新しい部屋のことを考えるのは、とても心躍る事だった。

美味しい食事で会話も弾む。
「今度はさ、日野や近戸や遠野も誘って8人でプチパーティーしたいよね
 でも8人だとこの部屋じゃ流石に狭いか」
荒木が言うと
「俺達のとこならもっと広いし大丈夫
 荒木と日野が来てくれれば、チカ、きっと喜ぶよ」
「トノもです、また日野と走りたいと言っておりましたし
 マイ食器を持って、是非遊びにいらしてください」
双子が瞳を輝かせて答えていた。

「ピザとか頼むのも良さそう、いろんな種類頼めるじゃん
 でも日野がいるからラージサイズで全種頼んでも足りないかも
 サイドメニューも全種で何とか足りるかな
 この量、配達してくれんの?」
「トノに車で配達してもらえば良いですよ
 車の中にチーズの匂いがついてしまうかもしれませんが」
「遠野、車の免許持ってるんだよね
 俺も頑張らなきゃ、流石に夏休み中には取ろうっと」
「チカはバイクの免許しか持ってないけど車のも欲しいって言ってたよ
 バイク買ってからだけどね
 チカがバイク買ったら乗せてもらうんだ、俺もソシオみたいに最初から上手く乗れるといいな」
皆、近い未来の話を楽しそうにしている。
私も黒谷も、平和な時代の平和な光景を見て幸せを感じるのだった。


「さて、揚げ物の続きがあるから僕はこの辺でお暇(いとま)させてもらおうかな」
食後のデザートに緑茶と羊羹を楽しんだ後、黒谷はそう言って大皿を持って部屋に帰っていった。
「わ、話し込んじゃった、もうこんな時間だ
 飼い主の話をしてると時間を忘れちゃうな」
時計を見た明戸が慌てて立ち上がる。
「食器は後で洗いますので、先に作業をしてしまいましょう」
皆野の言葉で私たちは慌ててテーブルの上の物を流しに持って行った。

それから双子が持って行く食器や調理道具を新居に運んだり、部屋の掃除を始めた。
双子が新居で運び込んだ物をより分けている間、私と荒木は食器棚の掃除をしていた。
「せっかくなので食器の下に敷く布を新調してみました」
私は拭き終わって乾いた棚の段に黄緑色の布を敷いていった。
「わ、キレイなライムグリーン、何か棚が新品に見える」
「三峰様のお屋敷で、緑が好きになったと言っておりましたので選んでみました
 気に入っていただけて良かったです」
飼い主の様子に、私は胸をなで下ろした。
「覚えててくれたんだ、ありがと」
荒木は頬を染めお礼のキスをしてくれるのだった。
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