しっぽや5(go)

□近い未来
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今度はパソコンデスクを見に行ったが、やはり決められなかった。
それは近戸と遠野も同じ様で
「自分で使うとなると欲が出るよ
 デザイン家具で値段も高いしさ」
「でも、作りはしっかりしてるんだよな
 長持ちしそうなのは魅力だよ、そうそう買い換えられないだろ」
「リビングに置く物は全体のバランスが難しいな
 サイズ的な問題もあるし、うちはソファーは2個欲しいから」
「モッチーの部屋見て俺もソファー良いなって思ってたんだけど、双子のとこのテーブル、ソファーで使うには高いんだよね
 でもそのテーブルをパソコンデスクにしても良いのか」
俺達はブツブツと呟きながら歩いていた。

「はいはい、次に移動するぞ、気になった物の値段とサイズ、把握してきたか?」
モッチーが引率の先生みたいに聞いてくる。
「スマホにメモっておいた」
「よしよし
 安い買いものじゃないし、絶対今日決めなくても良いぜ
 ここの値段は高めだけど、次に行くとこはリーズナブルでも値段以上の満足感があるかもな」
俺達はモッチーの運転する車の先導で次の店に向かった。


こんどは圧倒的な家具の波に呆然とすることもなく、1時間後に出入り口に集合することにして各々目当ての物を扱っているフロアに散っていく。
俺と白久は真っ先に寝具売場に移動した。

「さっきの店より重厚さはないけど、確かにリーズナブルかも
 かといって、作りもチャチじゃないし
 でも向こうの店の、サイドテーブルとか揃いになってるやつ良かったなー
 白久はどう思う?」
「私にはデザインとやらは、よくわかりません
 荒木が安全に使えるものが好ましいですね
 金銭のことは気にせず、荒木が使いやすい物を選んでください
 せっかくの荒木との新しい部屋です『安物買いの銭失い』にはしたくありませんから」
愛犬の言葉は尤(もっと)もなものだった。
「うん、でも俺、100均で失敗するのけっこう好き」
俺がヘヘッと笑うと
「あそこの商品は別格ですよ、いつも商品アイデアに驚かされます
 驚き代を払ったと思えば良いのです」
白久は悪戯っぽく笑い返してくれた。


集合場所で落ち合い、今度は家電量販店を見に行く。
家具は門外漢といった風情の白久であったが、キッチン家電には興奮を隠しきれない様子だった。
皆野と一緒にあれこれ真剣に悩んでいる。
飼い主達はその間、テレビ売場に移動した。
「悪い、ちょっと明戸と見たい物があるんだ
 すぐ買ってくるから」
そう言って近戸と明戸は他のフロアに移動していったが、10分くらいで小さいサイズのビニール袋を下げて戻ってきた。
「チカに買ってもらっちゃった
 帰ったら使い方教えてくれるって」
得意げな明戸が見せてくれたのは、スマホの携帯用充電器だった。

「捜索中に使えるよう、明戸に持たせたかったんだ
 家具や家電は無理でもこれくらいなら買ってあげられるから、丁度良い機会だと思ってさ
 明戸は優秀だから捜査中スマホは無くても良いけど、うちに来た時みたいに遠征しなきゃいけないときは持ってた方が安心だろ」
照れた顔の明戸を見て
「確かにそうだな、俺も皆野に買うよ
 同じ物で大丈夫そうだな」
遠野が確認するように明戸の充電器を手にしている。
「俺も白久に買ってやりたいから、一緒に行って良い?」
慌てて言う俺に
「もちろん」
遠野は近戸と同じ顔で笑ってくれた。


「そう言えば、自分用の充電器って持ってないんだ
 白久とお揃いで買おうっと」
「俺とチカはバイト始めたときに買ったんだ
 ほとんど使ってないけど、何かあったときの保険だと思えば持ってると安心かな」
「白久と皆野が合流したら渡そう
 2人とも喜ぶだろうね」
飼い犬&猫の笑顔を想像し俺達はニヤケながら戻っていく。
想像以上の笑顔を見られるまで、大して時間はかからなかった。


欲しい物の目星だけつけて、俺達はランチを食べるために移動する。
せっかくなので、普段は遠くて行けない少し高級感のあるファミレスに入ってみた。
注文を済ませドリンクを持ってくる。
白久は料理が来るまで嬉しそうに何度も充電器をながめていた。
あまりの喜びように、もっと早く買ってやれば良かったと少し後悔するが
「部屋に帰ったら、使い方を教えてください
 荒木とのお揃いの品がまた増えました」
愛犬の笑顔の前にそれは吹き飛んでいき
「うん!」
俺も愛犬に負けない笑顔で答えるのだった。


ランチを食べながら、欲しい物をモッチーに教えていく。
「へー、ベッドとサイドテーブルとランプのセットか
 統一感ある寝室って感じになりそうだな」
迷った末、俺は結局最初に見たセットを買うことにした。
「んじゃ、食べ終わって一息ついたらもう一度店を回って注文するか」
モッチーの言葉で白久と共に生活する未来が一段と近づいてきた気がする。
直ぐそこにある未来に向かい、俺と白久は確実に進んでいた。

「今の部屋での白久との生活も満喫しておかなきゃね
 充電器の使い方教えるし、今日は泊まってく」
俺が小声で囁くと愛犬の笑みはさらに深いものになり
「とても楽しみです」
熱く囁き返してくれるのであった。


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