しっぽや5(go)
□近い未来
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引っ越しに向けての家具を見に行く日、俺と白久はモッチーの車に乗せてもらえることになった。
「わざわざ車出してくれてありがとう
今日はゲンさんのとこは良いの?」
恐縮して聞く俺に
「今日は家具屋でのんびりしてこいってさ
どうも、こないだの事故物件の時に『危険な場所にかり出した』って気にしてるみたいなんだ
活躍したのはミイちゃんだし、俺、全く具合悪くならなかったのに
ゲン店長、あの翌日発熱してたから、一番割りを食ったの自分だと思うんだが
店長、律儀な人だからな」
モッチーは運転しながら苦笑していた。
「やはり、荒木を行かせなくて良かったです
クロによると事務所に戻ってきた日野は平気そうな様子でしたが、腕や足がとても冷たくて鳥肌が立っていたとか」
神妙な顔の白久に
『それはあいつが事務所に帰ってくる直前に、お茶屋でバケツに入ったアイスを一気食いしたからだ』
とは言い出し難かった。
「家具屋は幹線道路沿いに多くあるから、車で回った方が楽だぜ
大滝家の車は4人乗りだし、双子が二組で一杯になっちまう
俺も、何か良さそうな物があるかどうか物色させてもらうよ」
モッチーは悪戯っぽく笑う。
「だいたい、学生がガンガン家具やら家電やら買いまくったら不審に思われるだろ
店側との交渉は俺がやるよ
うちで管理してるマンションの備品扱いにすればおかしく思われないし、上手くすれば少し色付けてもらえるかもな
俺も便乗してテレビでも買おうかな
レンジも最近調子悪かったっけ、俺の初任給で買った年代物だもんな」
「そっか、確かに近戸達、ダブルベッド2台買うとか、怪しいもんね
そこまで考えてなかったよ
今日は見るだけで良いかなとか思ってたから
俺の時は白久が買うって事にした方が良いね」
モッチーの言葉で、やっとそれに気が付いた。
「双子猫の新居は直ぐにでも荷物を運び込めるから、今日即決してもかまわないんだ
その点は明戸と皆野に伝えてあるから、今頃車の中で飼い主に報告してるんじゃないか?
後から良い物が見つかる場合もあるが、現品限りの掘り出し物に出会えることもある
物との出会いも運ってやつだ、気に入った物があれば荒木も買っちゃって良いからな
日が合えば、俺の友達に大物の移動を手伝わせるぜ
俺の引っ越しもやってもらったんだ、あいつら半分プロみたいなもんだしな
もちろん、俺も手伝うよ
引っ越し業者に頼むより金もかからず、機密保持的な面でも良いと思うからよ
お礼はビールで、って、未成年に酒たかるのはヤバいか
ここは白久に弁当とツマミでも作ってもらうかな」
豪快に笑うモッチーに
「お任せください!皆様に喜んでもらえるよう、頑張ります!」
白久は勢いよく頷いていた。
もう少し先だと思っていた白久との新生活が急に現実味を帯びてきて、嬉しい誤算に口角が上がりっぱなしになってしまうのだった。
イケイアに到着し駐車場に車を止めると、俺は早速近戸に話しかける。
「買ったもの新居に運び込めるって、双子に聞いた?」
「聞いた、夏休みに一気に引っ越そうと思ってたけど今から荷物を移動させて良いなら、早く済みそうだよ
夏休みは新居で過ごせるって、今から楽しみ」
近戸の顔も俺と同じで緩みっぱなしだ。
「明戸達の荷物が早めに無くなるなら俺たちの荷物も早めに運べるから、俺もそっちの荷物の移動手伝うぜ
お前も遠野もバイトあるし、夏休み前はちょいちょい来るの大変だろ?」
「助かる、俺たちも時間が合えばそっちの手伝いもするよ」
「モッチーの友達に手伝ってもらえるかもしれないんだ
引っ越し業者、頼まなくて良さそうだよ
節約しないとね」
楽しい未来を語り合いながら店内に入った俺達は、店内を見て固まってしまう。
「これ、全部家具…?」
あまりに家具がありすぎて、何が欲しいのかわからなくなってきた。
「どうする?まずはベッドが欲しいんじゃないか?寝具売場は2階だぞ
どうせなら枕やシーツ、カーテン、一式新品で揃えるか?
他の店も回るし、取りあえずここでは目星だけ付けておくと良いぜ」
俺達の状態を見かねたモッチーが声をかけてくれて、やっと頭が働き始めた。
「そうだね、ベッド見に行こうか」
何とか気を取り直した近戸の言葉で、2階に移動する。
移動先でも展示されている多くのベッドを見てまた混乱してしまうが、サイズやスプリングの具合を確かめているうちに『これを自分達が使うのだ』という自覚が出てきた。
そうなると本気で悩み始める。
「これ、デザインは好みだけど高さがありすぎるかな
白久なら問題なくても、寝起きの俺がコケて落ちそう」
「それはゆゆしき問題です、どうぞ荒木のサイズに合わせてください」
「こっちは高さは良いいけど、デザインがなー
かなりの値段するから、ここは妥協したくないかも
スプリングがあんまり堅いのは使い勝手が悪そうだし
あ、サイドテーブルとランプが揃ってるベッドもある
統一感あって良いね」
悩みまくった結果、結局決められずに俺達は別のフロアに移動した。