しっぽや5(go)

□古き双璧〈11〉
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目的地に到着すると、そこには私達の他に数組の双子がいた。
緊急企画としてネットで参加者を募集したら、あっという間に枠が埋まったと久那がこっそり教えてくれた。
「今回の募集、無報酬なのにこの人気、和泉って凄いだろう
 ミドリ先生のドッグラン改装も手伝ってもらうから、撮影で着た服はお持ち帰り、最後の打ち上げは和泉持ちだけど
 今回の撮影では『日常生活でいかに着こなすか』が基本テーマだから、皆、キリキリ働いてもらうよ」
飼い主の仕事を手伝える久那は、とても生き生きとして見えた。


最初は緊張していた素人モデル達も、アットホームな撮影で自然な笑顔が出るようになっていた。
トノもチカも犬の散歩係を頼まれて、本気で犬達と走り合っている。
カメラマンが撮ろうとしても、スピードが出過ぎていてブレてしまうほどだった。
「犬達が疲れた頃合いを見計らって撮るしかないな」
和泉は苦笑していたが
「皆、人間に構ってもらえて嬉しいんだよ
 ミドリ先生のとこのスタッフで、あそこまで走れる人いなから
 人間に対して少し距離があった犬も、自然に打ち解けてる
 ありがとう、皆野、明戸
 君たちは良い人を選んだね」
久那は私達に対して頭を下げていた。
飼い主(候補)が他の化生にも誉められ、私達は誇らかな嬉しさでいっぱいだった。


撮影は順調に進み、夕方には終了することが出来た。
和泉が用意したマイクロバスで寿司屋に移動し、皆で料理に舌鼓を打つ。
生物が苦手な人もいるから、寿司以外にも天ぷらやソバ、焼き魚、野菜の田楽、厚焼き卵、色々な物が用意されていた。
自分たち以外の双子を見る機会のない人間達は共同の体験をしたという仲間意識も手伝い、話が弾んでいた。
私達もその輪に入れてもらうことが出来て、多少のおかしな言動は皆笑って聞き流してくれた。
お店の予約時間の2時間を楽しく過ごすと、家に帰る人、翌日の観光のためホテルに向かう人、三々五々に人が散っていく。
私達は和泉が用意してくれたビジネスホテルに向かうため、再びマイクロバスに乗り込んだ。

「この後はどうせ寝るだけだと思ってビジネスホテルにしちゃったけど、大丈夫だよね
 ツインを2部屋用意したんだ
 遠野君は皆野と、近戸君は明戸と同室で使って」
和泉に渡された封筒を手にしたトノとチカは戸惑ったように顔を見合わせている。
「この場合、兄弟同士で同室になった方が良いのかなとも思うんですが」
トノが躊躇いがちに聞くと
「こんなチャンスめったいないよ
 付き合うならきちんと思いを吐き出して、納得してからの方が良い
 ホテルの部屋なら周りを気にせず話し合えるだろう
 大丈夫、きっと彼らから何を聞かされても、君たちなら受け入れて共に歩んでいこうと思えるよ
 俺が彼の想いを受けて、そう決意したように
 彼らに選ばれるという事は、自分自身も彼らを求めているという事だと思う」
和泉はそう言って隣に座る久那の手を優しく撫でていた。

「上手くいったら、俺は君たちの先輩になれる
 後輩が増えるのは良いものだ
 おっと、着いたよ
 駅まで直ぐだから、明日は自分たちで適当に帰って
 雑誌が発売されたら、しっぽやの方に送っておくから貰ってね」
和泉に急かされ私達はバスを降りる。
トノもチカも途方に暮れたような顔をしていたが、ホテルの受付にどのように説明したら良いか私も明戸もわからないので、動かない2人を前に同じように途方に暮れてしまう。

「あの、俺達、こーゆーのわからなくて
 チカかトノが受付してくれるとありがたいな」
明戸がオドオドとチカのTシャツの裾を掴んで伝えると、やっとチカがハッとした顔になった。
「その、明戸は俺と同じ部屋で良いの」
チカは困ったように明戸に聞いていた。
「チカと一緒に居たい」
正体を打ち明ける決心が揺るがないよう、自分を鼓舞しているようにも見える明戸に勇気をもらい
「私もトノと一緒に居たいです」
私も何とか想いを口にする。
トノとチカは頷きあって
「じゃあ、フロントで受け付け済ませちゃおう」
少しギクシャクした動きで歩き出した。
運命の瞬間に向かい、私も明戸も2人の後に付いていった。


部屋は7階で、隣同士だった。
私達は2組に分かれて部屋に入る。
私と明戸はお互いのプライバシーを尊重するため、拒絶ではなく一時遮断という手段をとって想念を通わせないように話し合っていた。
とは言え、危険が迫ったり助けが必要な事態になれば、それは直ぐに解除される状態であった。

部屋はベッドが2台と間にサイドテーブル、それ以外に小机が1つあるだけの、こじんまりとした空間だった。
それでもトノと2人っきりで一緒に居られるため、私にとっては贅沢な部屋に感じられた。
カーテンを開けると、窓からは町の灯りが見えるが喧噪は届いてこない。
ここならゆっくりと話が出来そうだと思うと、緊張が高まってきた。
どうやって話を切り出せば良いか、このままお付き合いをするだけの関係でも良いのではないか、正体を知った後飼ってもらえるだろうか、思考がグルグル回っている。
トノも落ち着かない様子で辺りを見回していた。
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