しっぽや5(go)

□古き双璧〈11〉
2ページ/4ページ

待ち遠しく迎えた日は晴天で、少し暑いくらいであった。
私と明戸は白い半袖シャツに黒いベストとパンツ、猫だったときの柄を意識したような服を着ていた。
ネクタイはしていないので、ウラにもらった緑と青の石が付いているチョーカーを首に巻いている。
着替えやタオル類の他、お弁当やお菓子、車内は空調が効いていて寒いかもしれないので温かいお茶も用意してきた。
待ち合わせの駅で大荷物を持った私達を見たトノとチカは、ビックリした顔をしていた。
「何か持ってこないといけない物ってあったっけ?
 どうせ1泊だしと思って、着替えとタオルくらいしか持ってこなかった
 イズミ先生から連絡来たの?」
慌てたようにトノに聞かれ
「いえ、せっかくなのでお弁当を作ってきたんです
 お口に合うと良いのですが
 お菓子やお茶もありますよ
 食べてしまえばカサがが減って、帰りには軽くなります」
私はそう答えた。
「皆野の手作り?凄い楽しみだよ!」
トノが感激したように答えてくれたので、私は嬉しくなって明戸と顔を見合わせる。
明戸も嬉しそうに笑っていた。

「俺も、手伝ったんだよ
 皆野ほど料理上手じゃないけど、チカのために頑張った」
「ありがとう明戸、嬉しいよ
 俺も食べるのが楽しみだ」
チカは明戸の頭をグリグリ撫で回している。
チカは明戸のことをよく触っているが、トノは時々そっと触れてくることの方が多かった。
『トノは真面目な堅物だから超奥手だってチカが言ってた
 でも勢いがつけば大胆になるから、皆野は心配しなくても良いってさ』
明戸が教えてくれた言葉を証明するように、トノが躊躇いがちに手を伸ばしてきていつもより強い感じで頭を撫でてくれる。
その手の力強さが嬉しくて、私の不安は少しだけ軽くなった。


今夜、私と明戸は『自分が人外の存在である』と打ち明ける決心をしていたのだ。
『君たちのことだから、同じタイミングで記憶の転写をしたいって思ってるんじゃない?
 学生相手にそのタイミングを作り出す場を用意するのは難しいだろうから、ここは金持ちの俺が一肌脱ぐよ
 長いこと飼い主が居ない状態の君たちを見ているしかなかったから、これくらいは手伝わせて
 君たちの選んだ人間だ、きっと気持ちに応えてくれる
 とは言え、モデルの仕事はきっちりこなしてもらうからね
 久那の指示にちゃんと従ってよ
 後、ちょっと力仕事も頼んじゃうけど
 他の参加者の手前、君たちだけ公(おおやけ)に特別扱い出来なくてさ
 宿泊も、観光がてら自費でするって設定にしてあるから』
和泉が私達に何を頼むつもりなのかわからないけれど、今回の申し出はとてもありがたいものであった。


やってきた電車に乗って移動する。
途中の駅で2回乗り換えると、後はこのまま2時間半ほど乗っていれば目的地に到着だ。
いつも乗る電車とは座席の向きが違い、私達は4人で向かい合わせに座り楽しくしゃべっていた。
「今日は朝が早かったので、少し早めのランチにしましょう」
私が2つの大きなアルミホイルの包みを手渡すと、トノはビックリした顔になる。
「はい、チカのは俺が作ったんだ」
明戸もチカに同じ物を渡していた。
ホイルを開けたトノが
「おにぎり!具が色々入ってるね
 これって爆弾おにぎりってやつだ、美味しそう」
満面の笑みを見せる。
「旅のお供におにぎり、やっぱこれだよな」
チカもニコニコしていた。
私も明戸も、黒谷と新郷から受けた助言に感謝する。
飼い主がいる者達の言葉は頼りになるものであった。

「チカ、2個で足りる?日野は5個は食べるって黒谷が言ってたよ」
「日野って、この前荒木と一緒に来た人?いや、これ5個は無理だろ
 普通の大きさのを、ってことじゃない?」
「日野に普通のオニギリを作るときは、5合炊いて全部握るとも言ってましたね
 今回4人分で5合は少なかったでしょうか」
「ランナーは見かけより食べる人が多いけど、それは話し盛りすぎなんじゃないか?
 わ、卵焼き美味しい、塩加減絶妙!皆野、料理上手いね」
「この唐揚げも生姜効いてて美味い!塩焼き鳥も入ってる
 明戸が作ったの?どれも凄く美味しいよ」
「豚の角煮も出てきた、凄い豪勢な感じ
 爆弾おにぎりって楽しいな」
トノもチカも夢中で食べてくれて、見ているだけで幸せで胸がいっぱいになる。
明戸も同じ気持ちなのだろう、幸せに満ちた顔で愛おしそうにチカのことを見つめていた。

おにぎりに野菜を入れられなかったので、キュウリを一夜漬けにして持ってきていた。
トノもチカも豪快に丸かじりしている。
私達も真似してカジってみると、いつもとは違った美味しさが感じられる。
『過主と同じ物を食べられるって、幸せだね』
感に堪えない明戸の想念が胸に響いてきた。
私も全く同じ思いで、毎日こうやって4人で食卓を囲めたらと思わずにはいられないのだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ