しっぽや5(go)

□変わるもの変わらないもの
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愛犬とのイチャイチャ時間を満喫した俺と日野は、自分達が出勤していなかった期間の報告書をチェックする。
依頼件数は今までとさほど変わらなかった。
「少し遠方の依頼が入るようになったな」
「口コミで広まってるのかもね
 ここは早く免許取って足になってあげたいけど…」
俺達は顔を見合わせてため息を付く。
「暫く自動車学校の方は行く時間が取れないな
 大学の方で覚えることが多いし、決めないといけないことも多い」
「同じく、何かまだ学校に慣れるのが精一杯でそっちまで気が回らないと言うか」
誰にともなく2人で弁解をし
「それに、ここにも来たいじゃん
 黒谷のとこに泊まりたいから、週末に集中授業入れたくなくてさ」
「GWも白久の部屋で過ごしたいし、合宿とかもちょっとねー
 春休みに合宿行ったりとかして急いで免許取った奴の気持ち、今なら分かる
 かといって、同じことは出来ないけどな」
また2人で顔を見合わせる。

「俺達、甘えてるかな」
「でもさ、免許は大学卒業しても取れるけど、白久との今年のGWは1回しかないんだよ
 白久と過ごす一瞬一瞬が宝物って言うかさー」
俺が力説すると、感極まった白久が抱きついてきた。
「飼い主に、こんなにも必要とされる私は幸せな犬です
 荒木のためなら寂しさも我慢できます
 どうか、有意義に荒木の時間をお使いください」
「白久と居るのが、俺の有意義な時間だよ」
抱き合う俺達を見る黒谷の羨ましそうな視線に負けて
「そうだな、黒谷との時間の方が大事だもんな
 焦んなくて良いか」
日野も黒谷を抱きしめていた。

「先輩たち、いつもテンション変ですが、今日はまた一段とおかしいですよ」
タケぽんの言葉に
「「お前には言われたくないっ」」
俺達は同時に突っ込んだ。
「あー、これでこそしっぽやだ
 今ちょっと達成感感じた」
「うんうん、俺達帰ってきたんだなー」
2人してしみじみ頷いていると
「何でですか!」
タケぽんだけが納得いかない顔で首を捻っていた。


依頼が多くはなかったが、途切れることなく誰かが捜索に出て行っていた。
久しぶりに飼い主に会う白久と黒谷に気を使ってくれたのか、大麻生とふかやが率先して犬の依頼に出てくれた。
「今日も空は中級しつけコース頑張ってますよ
 なんでも、手伝ってくれる頼もしい狼犬のブラザーが出来たとか
 手伝い料払った方が良いのかなって気もしますが、無料で1日ペットシッターしてもらえるからありがたいって飼い主の方に言われて
 若い狼犬の体力に空ならついていけるし、運動になるみたいですね
 いい感じにギブアンドテイクしてます」
タケぽんの報告に
「そっか、アレキサンダー、俺達のことちゃんと家族認定してくれたんだ
 まあ、あれだけ強烈な体験したからね」
日野が黒谷を見て笑顔になった。
黒谷も笑い返していたが、何故かその目は笑っているようには見えなかった。


午前中はしっぽやの業務記録のチェックで終わり、ランチは愛犬の手作り弁当を堪能する。
久しぶりの白久の味にホッとしている自分がいた。
「ジャジャーン、豪華手作りデザートです!」
タケぽんが食後の紅茶と共に、ホールケーキを持ってきた。
「手作りって、ひろせのだろ?」
日野の指摘に
「俺も、材料計って粉を篩(ふるい)ました」
タケぽんはやり遂げた顔で答えていた。

ケーキにはホワイトチョコのプレートがのっていて、そこにはチョコペンで『祝!大学入学』と書かれている。
「今更なんですけどね
 2人のイメージだから、白黒にこだわってみました」
生クリームでコーティングされたケーキの上には、チョコクリームと生クリームが交互にデコレーションされていた。
切り分けると断面のスポンジもプレーンとココアの白黒で、間に挟んであるのもチョコクリームと生クリームだった。
「黒谷と白久のケーキだ…ありがとう」
日野が感激したように声を詰まらせる。
「美味しそう!凄いね、ひろせ本当にお店開けるんじゃない?」
かく言う俺も感動してしまった。
愛犬の料理とひろせのデザート、これもまぎれもなく俺達にとってのしっぽやであった。


ケーキを食べ終わった頃に、大麻生が帰ってきた。
彼がランチを食べているタイミングで新たな依頼が入る。
捜索に出ようとする大麻生を白久が制した。
「次は私が出ます、荒木が頑張っているのだから、私も頑張らないと
 中型のミックス犬なら、私でもいけますよ
 午前中は荒木と過ごせたので、今は気力が充実しております」
頼もしい言葉と共に事務所を出る白久に
「来週は土曜に出勤して、泊まりに行くから」
俺は声をかける。
「嬉しいボーナスです」
愛犬が弾んだ声で答えてくれたのが嬉しかった。
「俺も来週はお泊まりにしよっと」
日野の言葉に、黒谷が満面の笑みを浮かべていた。

大学生活が始まって初出勤のしっぽやは、今までのように楽しい時間が流れているのであった。
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