小説

□行動で示せ
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あの後、あろまとFBには少しばかりお灸を据えられたが、以降特に深く咎められることもなく。

完全なプライベートに入ったこともあり、数時間に渡って俺はあろまを、きっくんはFBを独占し、各々でまあ…やりたいことをやっていた。

とは言っても、四人共ずっと同じ部屋にいたし、会話もそれなりにしていたから、独占っていうのも物理的なものでしかないが。

よほど欲求不満が溜まっていたのか、俺はあろまに対して意味もなく頭を撫でたり、引き寄せて抱き締めたりしている。

あろまも最初こそ嫌がる素振りをしていたが、俺がやめないとわかるとすんなり受け入れてくれて、改めてお互いの親密な関係を再認識することが出来た。

ただ、視界の端に見えたきっくんの過剰なスキンシップには、俺も、横で見ていたあろまも思わず苦笑い。

きっくんに愛されているFBは、相当体力使うんだろうなぁ…なんて、他人事のように話していた。

けど相手があろまとなれば、俺も大してきっくんと変わらないわけで。

衝動に駆られてぎゅっと抱き締めれば、たちまち流れるような罵倒が飛んできて、でも何だかんだで許してくれるあろまに、頬が緩みっぱなしの自分とか。

いや、きっくんほど積極的に行動しない分、逆に俺の方がたち悪いのかもしれない。


「きっくん一旦ストップして…!俺、お茶飲みたいから!」

「んー?そんなの俺が飲ませてやるよ」

「なんでそうなるのさ!?いや、きっくんそれアウト…!」

「へーふへーふ」

「あーあ、もうあれ絶対FB逃がす気ないわきっくん」

「火に油を注いだな」


あろまと二人して、外野からFBがきっくんにお茶を口移しされる光景を眺める。


「FB…ご愁傷様」

「お前ら揃いも揃って暑苦しいべや」

「なんで俺の方見たの、それ俺も含まれてるの?」

「当たり前だ、いい加減離れろくそ」

「あろまもお茶飲む?持ってくるけど」

「……お前が紳士で良かったわ」


あからさまにほっとしているあろまの呟きに、どんな意味が含まれているかは、大体わかってる。

きっくんのように、俺が口移ししてくるのではないかと、内心冷や冷やしていたに違いない。

確かにやろうと思えば出来ないことはないけど、そこまでしなくても、あろまのさりげなく可愛い一面を、俺はたくさん知っているから。

ほら、今だってお茶を取りに立った俺の後を、なぜか無言で付いて来る。

待っていれば、そのうち俺がコップを持ってきて、何もせずともその場で楽に喉の渇きを潤せるのに。

わざわざ台所まで一緒に来て、俺がお茶を入れるのを手伝うでもなく、突っ立ってじっと見てるだけのあろまは、まさしく人に付いて回る子供の性そのものだ。

お茶を注いだコップを二つ用意し、片方をあろまに渡せば、俺のすぐ隣でそれをちまちまと飲み始める。

本人は深く考えずに無意識で動いているんだろうけど、つまり今の行動は全て素のあろまなんだなって、思わず笑ってしまう。


「まだまだ、俺達は普通のキスで充分だな」

「ぶっ…!いきなり何言い出すんだお前」

「いや、無理にきっくんみたいなことしなくても、今はこの距離感が丁度いいなって」

「…俺は別にどっちでも」

「え?」

「お前がしたいなら、すればいいし…」


急にもごもごと、そっぽを向かれて。

ん?と首を傾げて覗き込むと、ばっと勢いよく振り返ったあろまに、突然キスを落とされる。

驚くほど近く、それこそ目と鼻の先に、あろまの整った顔があった。

いつものあろまらしくない、極めて珍しいアプローチに、胸の鼓動がずっと鳴り止まない。

ふっと唇が離されて、どうしてと言うように視線を合わせれば、あろまは「さっきの仕返し!」と、やけくそに笑った。

未だ見たことが無かった初めての表情に、何年も前、あろまに恋心を抱いた時のことを思い出す。

用件を済ませた恋人はそのまま背を向けると、そそくさと足早にリビングの方へと歩き出してしまった。

いつの間に置かれていたのか、流しに佇むコップには、まだお茶が残っていて。

何の気無しに、コトリと、自分のコップもその横に置いた。


「…はあぁ……」


余裕なく浮き沈みを繰り返す心、高鳴る胸を落ち着かせるように、俯いた俺はゆっくりと大きく息を吐いた。

そうして、あろまに口付けられた部分を、おもむろに手で押さえる。

……仕返しになってないって。


「っ!…なんだよ」


俺の足は、脳からの命令を待たずして、台所から勝手に抜け出していた。

一回り小さな背中を追いかけて、引き止めるように、後ろから抱き締める。

理由なんて特にない、ただ。


「ハグしたくなったから」

「…お前、不意打ちすんの好きだな」

「あろまだってさっき不意打ちしてきたじゃん」

「仕返しだって言ったべ」

「むしろご褒美なんですが」

「……へんたい」

「褒め言葉」


少なくとも、ここまで守ってあげたいと思うのは、唯一あろまだけだから。

どこまでも寛容に、あろまの言動を受け入れる。
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