誠乃戦隊
□五、部下の奪い合いする上司って大人げない
3ページ/3ページ
「総悟の命令に一々応えてたら身がもたねーぞ。来い。仕事やるから」
侑の腕を掴んでいるのは土方だ。
「その手を放してくだせェ土方さん。斬っちゃっていいんですかィ?」
「え、あの…」
「斬れるもんなら斬ってみやがれ」
「いや…」
さっきから不安な声を出している侑だが、全く気付かれない。
「アンタがいなくなれば俺が副長でさァ。そんで侑さんをさらにこき使ってやるんでィ」
「どーせパシリだろうが。俺だったら書類整理から部屋の掃除、マヨネーズの買い出しまで十分に使ってやる」
「土方さんそれをパシリって言うんでさァ。俺はあれですぜ。首に鎖付きの首輪をはめて、調教してやるんでィ。俺の言うことしか聞けなくしてやりまさァ」
「それ単にお前好みの女に仕立て上げたいだけだろーがっっ!!」
「違いまさァ。侑さんの中にあるM心を引き出してやるんでィ」
沖田にも、ガシリと腕を掴まれた。侑は単純に、身の危険を感じた。
「放せ」
「イヤでィ」
「だから放せって」
「イヤでィ」
「自由にしてやれ」
「ならお前が放せよ」
「何で上からだ!」
「いい加減にしてくだせェ」
そう沖田が言った時、侑はぐすんと涙した。
「いい加減にするのは、お二人です」
「「!!」」
ぽたぽた床に落ちる涙を見て、二人は直ぐに手を放した。こういう女の涙って、面倒臭いのだ。慰め方も分からない。沖田に至っては、それに興奮する時だってある。Sだから。
「私、どれだけ使われても構いません。上司の方が頼ってくださるのは、自分を信用しているから。それって光栄なことです。でも、私…」
何だろう。二人で奪い合うのは止めてください!私道具じゃないんです!とでも言うのだろうか。と土方と沖田は思っていた。
「たまにはお二人の裸を見て、心の充電をしたいんですっ!!」
そっちかァァァァァァァ!!!
見事に二人の心の声が重なった。
「ご褒美が欲しいんです!もう定刻過ぎる頃には心も体も傷だらけなのに、お二人は裸の一つも見せてくれないし…」
「裸の一つもってなんだ。お前に見せるほど安くねーんだよ」
「うぅっ…ぃっ、うぐ…っ」
まだまだ涙が出る侑に、土方はうっと考えた。え、俺が悪いの?俺が裸見せないのが悪いの?つーかどんだけ変態なんだこの女!
「分かりやした侑さん。土方さんはイヤみたいなんで、俺ので良ければ…毎日」
「オイやめろォォォォォ!!卑猥な会話に聞こえるから!お願いだからやめてェェェェェ!!」
上に立つ者として、そういうのはいけないと、止めなければならない。しかしそう言っても、土方の声は届かなかった。
「隊長」
「侑さん」
沖田を強く抱き締める侑。今は隊服の上からでもいいらしい。
「大好きです。パシリでも何でもします」
「オイぃぃぃぃぃ!!お前いいのか!?そんな褒美だけでパシリとして使われてもっ!!」
「構いません」
凛々しい顔で言った侑。土方はもう疲れていた。この女が分からない…と。
「いいんですかィ土方さん。何もしてあげないと、侑さん手伝ってくれなくなりますよ?」
「そ、それは…」
困る。何分日高が手伝ってくれるお陰で、仕事が早く終わって楽だ。この前は攘夷浪士らを討ち取る為に策を一緒に考えた。鋭い見解を持っている奴だ。使える。
手放すのは嫌だ。しかしコイツに上半身裸を見せてやるってのも気が引ける。何かほら、如何わしいことしてるみたいだろーが。変な噂立てられると面倒だし。
今の総悟の顔も腹立つ。どうすんの?どうすんの?ってまるで中2のノリじゃねーか!
今決めるのか?いや無理だ!
総悟の前で日高に抱き締められるとこを見せてみろ!絶対写メ撮られて脅される!
すると…
「あー沖田隊長いたいた!もう何してんスか。見廻りの時間ですよ!」
一番隊の隊員が沖田を呼びに来た。今日の見廻りは、彼とパートナーらしい。
「今いいとこなんでィ。後にしてくれ」
「いや後って…無理です。ほら早くー!」
ずるずると引っ張られて行く沖田。土方は、彼が出て行ったら直ぐに部屋の鍵を閉めた。
さっきまで悩んでいた土方だったが、意思決定したようだ。侑の目の前まで来て言った。
「これからも、お前の力が必要だ」
「では…」
「しゅ、週一でどうだ」
「馬鹿にしないでください。足りません」
「は、ぁ!?…じゃあ、三日「一日一回です」
毎日だとォォォォォォ!!?
土方の心の叫びは虚しいものだった。彼女の要求とあらば、そうせざるを得ない。世の中は、代償というものがなければやってはいけないのだ。
「わ、分かった…」
「ありがとうございます」
不意だった為、土方は驚いた。
馬鹿な女に抱き締められるのは慣れっこだ。しかし、侑は土方を見ているのではない。彼の体にうっとりしているのだ。変な気分だった。
後日、侑は二人に文書を差し出した。
屯所内では、副長の仕事の手伝いに重点を置きます。
屯所外では、一番隊隊員として沖田隊長の下で仕事をします。
以上!
ということで、土方と沖田、それぞれが侑をこき使える範囲も制限されたのであった。
おわり。
おまけ
「侑ちゃんも考えたな!こんな風に出るとは!」
「みっともないですよ。こんなどうしようもない部下を取り合うなんて」
「そうか?俺は二人の気持ちが分かるがな」
「涙まで流して。お二人の醜い争いを止めるのには苦労しました」
「いやー、侑ちゃんの演技力はやっぱり凄いなー」