誠乃戦隊

□三、新入りの影響力が凄まじいこともある
2ページ/3ページ






土方は気付いていた。最近隊士らが妙に上半身裸で屯所をうろついているのは、侑の所為だと。



「日高さーん!」

「侑さーん!」

「侑ちゃーん!」



「テメーらァァァァァ!!うっせーんだよゴラァァァァァ!!次その格好で日高を呼んでみろ、切腹だァ!!!」


ギャワぁぁぁぁ!!と逃げ出すと思われた隊士らであったが、土方を見ながらコソコソと話し出した。


「ただのヤキモチだよあれ」

「ったく、自分の手元に置いてるからってよォ」

「皆の侑さんだってのォ」


「よーし誰から粛清されたい?」

チャキ、と土方が刀の刃を少し見せると、隊士らは黙って去って行った。

フゥーと煙を吐き、開けていた襖を閉めた土方。



「副長。少しやり過ぎでは?」

「誰の所為でこんなことになってんのか。馬鹿じゃねェから分かるだろ」

眉間に皺を寄せながら、机の前に座った。

隊の秩序が乱れてきている。それもこれも、日高が入隊してからだ。コイツは確かに別嬪だ。それは俺も認めてやろう。だがコイツの趣味は、どう見たって変態の域だ。わざわざ自分からコイツに裸を見せる神経が理解出来ん。褒められたい一心で舞い上がりやがってあの野郎共…。


「ったく、だから女がいるとダメになるんだ」

「…申し訳ございません」

意外にもしゅんと落ち込んでしまった侑に、土方は慌てた。


「な、泣くなよ?泣かれたらほら、面倒だから、な?」

「…え?別に落ち込んでなんていませんけど」

フッと黒く笑った侑。土方は騙されたァァァ!と、彼女の特技である演技のことを思い出した。


「お言葉を返すようですが、以前にも増して、真選組の士気は上がっていると思います。皆さん私が褒めることに気を良くして下さって、稽古に励んでおられます。聞いたところによると、以前はサボる方も多かったとか」

言い返したいのに言い返せなかった土方。事実だ。以前は土方がいくら脅しても、しない者はしなかった。特に沖田が。


「叱ってばかりいては、伸びるものも伸びません。もっと皆さんを褒めてみてはいかがですか?」

何これ、説教?と土方は思った。新入隊士にこんなことを言われるなんて、プライドが許さなかった。が、まだ侑は言い続ける。


「私がいらないとおっしゃるなら、出て行きます。けれど、また副長一人に仕事が降りかかってきますよ。よろしいんですか、お一人で。過労死してもよろしいんですか、副長」

正直なところ、侑がいて土方は助かっている。仕事をきちんとこなすし、気が利くし、たまに褒美としてあなたの筋肉を触りたいですとか言われるが、使える奴なのだ。


「もう何も言うな」

「…すみません、でしゃばった真似を」

「いいや。お前はお前なりに、この隊のことを考えてんだな。…さっき言ったこと、撤回する」

土方は照れ臭そうに言った。この男がここまで正直になるのは珍しい。


「だ、だがなっ、屯所内を裸で歩き回られるのは俺も気分が悪い。どうにか出来ねーか?」

「承知致しました。策を打ちます」



侑は出会う隊士一人一人に話し掛けた。

「その美しい筋肉に一番お似合いなのは、隊服です。隊服も美しく、着こなしてくださいね」

そう声を掛ければ、皆うんうんと頷いた。
そして、忽ち裸で屯所内をうろつく者はいなくなったということだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ