誠乃戦隊
□三、新入りの影響力が凄まじいこともある
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土方は気付いていた。最近隊士らが妙に上半身裸で屯所をうろついているのは、侑の所為だと。
「日高さーん!」
「侑さーん!」
「侑ちゃーん!」
「テメーらァァァァァ!!うっせーんだよゴラァァァァァ!!次その格好で日高を呼んでみろ、切腹だァ!!!」
ギャワぁぁぁぁ!!と逃げ出すと思われた隊士らであったが、土方を見ながらコソコソと話し出した。
「ただのヤキモチだよあれ」
「ったく、自分の手元に置いてるからってよォ」
「皆の侑さんだってのォ」
「よーし誰から粛清されたい?」
チャキ、と土方が刀の刃を少し見せると、隊士らは黙って去って行った。
フゥーと煙を吐き、開けていた襖を閉めた土方。
「副長。少しやり過ぎでは?」
「誰の所為でこんなことになってんのか。馬鹿じゃねェから分かるだろ」
眉間に皺を寄せながら、机の前に座った。
隊の秩序が乱れてきている。それもこれも、日高が入隊してからだ。コイツは確かに別嬪だ。それは俺も認めてやろう。だがコイツの趣味は、どう見たって変態の域だ。わざわざ自分からコイツに裸を見せる神経が理解出来ん。褒められたい一心で舞い上がりやがってあの野郎共…。
「ったく、だから女がいるとダメになるんだ」
「…申し訳ございません」
意外にもしゅんと落ち込んでしまった侑に、土方は慌てた。
「な、泣くなよ?泣かれたらほら、面倒だから、な?」
「…え?別に落ち込んでなんていませんけど」
フッと黒く笑った侑。土方は騙されたァァァ!と、彼女の特技である演技のことを思い出した。
「お言葉を返すようですが、以前にも増して、真選組の士気は上がっていると思います。皆さん私が褒めることに気を良くして下さって、稽古に励んでおられます。聞いたところによると、以前はサボる方も多かったとか」
言い返したいのに言い返せなかった土方。事実だ。以前は土方がいくら脅しても、しない者はしなかった。特に沖田が。
「叱ってばかりいては、伸びるものも伸びません。もっと皆さんを褒めてみてはいかがですか?」
何これ、説教?と土方は思った。新入隊士にこんなことを言われるなんて、プライドが許さなかった。が、まだ侑は言い続ける。
「私がいらないとおっしゃるなら、出て行きます。けれど、また副長一人に仕事が降りかかってきますよ。よろしいんですか、お一人で。過労死してもよろしいんですか、副長」
正直なところ、侑がいて土方は助かっている。仕事をきちんとこなすし、気が利くし、たまに褒美としてあなたの筋肉を触りたいですとか言われるが、使える奴なのだ。
「もう何も言うな」
「…すみません、でしゃばった真似を」
「いいや。お前はお前なりに、この隊のことを考えてんだな。…さっき言ったこと、撤回する」
土方は照れ臭そうに言った。この男がここまで正直になるのは珍しい。
「だ、だがなっ、屯所内を裸で歩き回られるのは俺も気分が悪い。どうにか出来ねーか?」
「承知致しました。策を打ちます」
侑は出会う隊士一人一人に話し掛けた。
「その美しい筋肉に一番お似合いなのは、隊服です。隊服も美しく、着こなしてくださいね」
そう声を掛ければ、皆うんうんと頷いた。
そして、忽ち裸で屯所内をうろつく者はいなくなったということだ。