誠乃戦隊
□十六、一日局長に気を付けろッテンマイヤーさん
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“お手柄!?真選組またやった!!”
大江戸新聞に大々的に載っている記事。沖田が容疑者逮捕する為に店舗を半壊した、ということが記されている。
それを読んでいる二人の上司。
侑は後ろの方で、汗をだくだくと掻いている様子をじーっと見ていた。
「へェ〜、総悟がまたやったか〜。責任はお前がとってくれよな〜」
「違う違う、アンタのせい…つーか侑。お前がついていながら何て失態してんだ」
「申し訳ございません。何分、あの方には逆らえないもので」
何せ、その時沖田は片手にムチ、片手にバズーカを持っていたのだから。恐怖以外の何ものでもなかった。
[犯罪というものは、心のスキから生まれるものでございます!!]
今日は、“年始め特別警戒デー”である。その為大型車の上から、近藤が呼びかけを行っている。
しかし真剣に聞いている者はいない。…いや、侑だけはうんうんと頷きながら、近藤の話を聞いていた。
[正月だからって、あんま浮かれんなよと言いたい訳ですオジサンは!
みなさんの協力なくして私たちだけで江戸の平和を護るなんて到底無理な話です!
いいですかァ!!浮かれちゃうこんな時期こそ、戸締り用心テロ用心!!ハイ!!]
近藤のリピートアフターミーに応えてくれる者はいなかった。…いや、侑だけは、
「戸締り用心テロ「うっさい」
隣の沖田にズド、と鞘で腹を突かれた。別に俺たちは復唱しなくてもいいんですぜ、と面倒臭そうにしていた。
でも局長が可哀想ですよ、と思っていると、可愛らしい女子が近藤の横に現れた。
「あれれ〜、みんな元気がないぞォ。ホラ、もっと大きな声で。
浮かれちゃうこんな時期こそ、戸締り用心火の用じん臓売らんかィクソったりゃああ!!」
「「「じん臓売らんかィクソったりゃああ!!」」」
「こんにちは〜。真選組一日局長を務めさせて頂くことになりました。寺門通で〜す♡」
やはり芸能人の力は凄まじいもので、さっきまでぼーっとしていた通行人も、お通の登場でテンションMAXだ。
「それじゃあ一曲きいてください!ポリ公なんざクソくらえ!!」
公園に一同集まり、近藤は今回の趣旨の説明をする。その隣には、隊服に着替えたお通もいる。
正月でたるみきった江戸市民にテロの警戒を呼び掛けると共に、最近急落してきた自分たちの信用を回復すること。それが目的である。
「こうしてアイドルの寺門通ちゃんに一日局長をやってもらうことになったのも、ひとえにイメージアップのためだ!
いいかァ、お前らくれぐれも今日は暴れるなよ!そしてお通ちゃん…いや局長を敬い人心をとらえる術を習え!」
しかしアイドルが近くにいるとあって、隊士らは「サインくださーい!」と真っ先にお通に向かって行く。
そんな浮かれた者たちを近藤は殴る。局長らしく喝を入れたが、彼の背中にはお通のサインが大きく書かれていた。
「てめーもサインもらってんじゃねーか!!どーすんだその制服!!」
袋叩きにあう近藤。だが格好良く、
「一生背負っていくさ!この命続く限り!」
と宣言していた。
「いや〜、すっかり士気が上がっちまって」
「士気が上がってんじゃねーよ、舞い上がってるんだよ」
土方と沖田はそう話す。彼らはアイドルになんて興味がないらしい。
侑も言わずもがな、男の上半身と戦隊ヒーローにしか興味がない。
「寺門さん、こいつが今日のスケジュールでさァ」
ん、と沖田は顎で侑を動かす。どうぞ、とお通にスケジュール表を渡した侑。
「まァアンタは何もしないで笑って立っててくれりゃいいから。気楽に…」
そんな土方の言葉に、お通は反論した。
「あのォ、私やるからには半端な仕事は嫌なの。どんな仕事でも全力で取り組めって、父ちゃんに言われてるんだ」
例え一日局長でも務めを立派に果たそうと思い、彼女なりに考えて来たことがあるらしい。
「素晴らしい方ですね」と侑は隣の沖田にこそこそと話す。しかし彼は面倒臭そうな顔をしているだけだった。
「ちょっとあなたたち、いい加減にしてよ!」
近藤はまだ袋叩きにあっていた。それをお通が一言で止めさせた。
「そんな喧嘩ばかりしてるからあなたたちは評判が悪いの!何でも暴力で解決するなんてサイテーだよ!」
すると彼女は、次にとんでもないことを言い出した。
「もう今日は暴力禁止!その腰の刀も外して!!」
「オイオイ小娘がすっかり親玉気どりか?そいつらはそんじょそこらの奴に指揮れる連中じゃねーんだよ。それに武器なしで取締りなんて出来るわけねーだろ。刀は武士の魂…」
ガチャガチャ
「すいませんでした局長ォォ!!」
「転職でもするか」
ちなみに侑も外して敬礼をしていた。この人にならついて行ける!と自分なりの決意があったらしい。
土方と沖田は一向に武装解除をしない為、近藤が早くせんかァ!と怒っていた。
「あなたたちが陰でチンピラ警察24時と言われてるのは知ってるわ。私が局長になったからには、つんぽさんから叩き込まれた芸能戦術で徹底的にイメージ改善をはかってみせる」
まずは、物騒なイメージを取り払う為、規則から改善した方がいいということで、局中法度の
“士道に背くまじきこと、これを犯した者切腹”
を
“語尾になにかカワイイ言葉を付ける(お通語)こと、これを犯した者切腹”
に変更。
「…いやカワイくねーし。一番物騒なもの丸々残ってるから切腹って」
「それは侍らしさを表現するには削れないからくだのコブ」
「侍らしさなんて最早微塵も残ってねームーミン」
「そーそーそういうカンジ」
「うるせーよ!!」
あの土方さんが上手く使いこなしてる。凄いなぁ。私使えるかな、と少し不安になっていた侑に、お通が話し掛けた。
「あと、やっぱり男だらけのムサいイメージが拭えないから、ここは女隊士の侑ちゃんに手伝ってもらいたいんだんだん畑!」
「え…例えばどのようなものでしょうりを掴むのは絶対に戦隊ヒーロー」
「真選組のアイドルとして歌を歌ったり踊ったり、とにかく明るいイメージでやっていけば…」
それを聞いた途端、無理です無理です無理です!とお通語も忘れてあたふたし出した侑。人前に出て派手なことをするのは嫌いなのだ。
隊士の中では、侑さんがアイドルか〜と妄想爆発で鼻の下を伸ばしている奴がいたが。
あまりの拒否反応に、お通は仕方ないなぁと次の手を出した。
「親しみやすさのあるマスコット的キャラが必要だと思うのり弁。で、私なりに考えてみたんだけどメスティックバイオレンス」
あ、こっちこっち!と呼び出されたマスコットキャラ。
ケンタウロスが死体を背負っている。彼の名前は、誠ちゃん。
「だーから全然カワイクねーし!コレ真選組と何の繋がりがあんだよ!!
何で死体背負ってんだ!?どっちだ!?どっちが誠ちゃんだ!?」
「馬の方だようかん」
誠ちゃんは上半身裸。
勿論侑がどひゅーんと食い付いた。
ペタペタと誠ちゃんの筋肉を触っていると、あれ?と気が付いた侑。これは、あの人の…と誠ちゃんの顔を見ると、やはりそうだった。哀しげな目をしていたのに、一瞬キラッと輝いたのが証拠。
侑がよく知っている人物。正体を知られたくないようで、黙っててよ、というジェスチャーをしてきた。
「トシ、今の時代ストレートにカワイイだけじゃ通用しないんだよーグルト。よく見てみろ。なかなかキモカワ…」
パーンッ
誠ちゃんは「キモカワ」が気に入らなかったのか、近藤の頬を叩いた。
「てめー何しやがんだっふんだ!!」
「あー、やめてん津丼!」