誠乃戦隊

□十、大丈夫って言う奴ほど大丈夫じゃない
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秋と言えども残暑が厳しいこの季節。昨日は雨も降っていた為、今日は余計に蒸し暑い。

侑は今日、土方と見廻りだ。炎天下の中であるが、市民の安全を守る為だ。この仕事は欠かせない。


土方はこの暑い中で上着を羽織っているのが馬鹿馬鹿しくなってきたので、薄着。一方の侑は、きちんと隊服を着こなしている。新人だから、簡単に隊服は脱げないと彼女は言う。礼儀をわきまえるのだけはしっかりしている。


滴る汗を拭いながら、彼女は土方の隣を歩く。もちろん、治安が良いだろうかと辺りを見回しながら。



すると、一瞬だが目眩がした侑。あれ、と思ったが直ぐに治ったので気にせず歩く。


「ん?…オイ侑。どこ行こうとしてんだ。こっちだろ」

気付かずに、違う道へ行こうとしていた。土方が声を掛けなければ、そのまま離れていただろう。


「あ、すみません」

慌てて土方の隣に移動する侑。
彼女がこんなことをするなど珍しい。趣味に関しては変わっているが、仕事はきっちりこなす奴だと土方も信頼している。


「大丈夫かお前」

「はい。大丈夫です」

土方はそれ以上、彼女を心配しなかった。本人が大丈夫だと言っているのだから、大丈夫なのだろうと思い込んでいた。







そして屯所へ帰る時間になり、パトカーに乗り込んだ二人。車内は気温の所為でとても暑くなっていた。

こういう時の土方はケチである。エアコンを点けようとせず、窓を全開にする。風さえありゃいいんだよ。と言っているが、単にケチなだけだ。

助手席に座っていた侑。車内に入ってくる風を受けているのに、発汗が止まらない。何故だろうと思ったが、取り敢えずタオルで汗を拭いた。







屯所へ帰り着き、パトカーを降りる。土方から次の仕事内容が伝えられたが、何故か頭の中に入ってこない。侑は頭を押さえた。激しい頭痛が彼女を襲っている。そしてまた目眩もする。


おかしい。

そう思った時には、もう遅かった。そこで彼女は意識を失い、その場に崩れ落ちた。



「オイ、どうした!?侑!」

土方は直ぐに駆け寄り揺さぶった。しかし起きない。
侑の発汗症状と脈の回数で、直ぐに判断した。

「熱中症か」


土方は、近くにいた隊士に指示した。

「氷枕と経口補水液持って来い!」

「え?け、けいこほすい?」

「お豊に言えば分かる!」

お豊とは、女中歴が一番長い者の名前である。歳もとっている為、知識が豊富なのだ。脱水症状の時に扱う経口補水液の作り方も知っている。



土方は男らしく侑を抱き上げ、彼女の部屋に向かった。


片足で襖を開けると、そこには戦隊の玩具があちこちに並んでおり、とても入れる状態ではなかった。片付けとけよ馬鹿!と思ったが、今は病人であるし言えない。仕方ないと、今度は自分の部屋に向かった。


土方は自分の布団を敷き、そこに侑を寝かせた。

部屋を閉め切り、滅多に使わないエアコンを点ける。侑の上着も脱がし、シャツのボタンを2つ外す。発汗し続ける体をタオルで拭ってやりながら、片手で団扇を握り、扇いでやる。

柄にもなく慌てていた。今年の夏も、熱中症になってしまった隊士らを見てきた。が、今はその時よりも心を乱している。
責任を感じていた。あの時の「大丈夫」を信じなければ良かったと。俺の管理が悪かったんだと。



「副長ー!」

と、土方を呼ぶ声がした。さっき言い付けた隊士が、氷枕を3つと、経口補水液を持って来たのだ。

それを受け取った土方は、氷枕を侑の両脇と股の間に挟めた。ここを冷やせばいいと、処置の仕方は覚えていた。



「侑、飲め」

吸い飲みの飲み口を、彼女の唇に当てる。そして、少し開いた所から流し込んだ。

侑の意識は朦朧としていた。だから誤って、折角流し込んだものを口の端から溢してしまう。土方がイライラしても、そんなこと侑には分からない。


「飲まないと死んじまうぞ」

…こうなったらしょうがねェ。口移しで飲ませるか。などというムフフな展開を展開することを、土方はしない。自分の指を彼女の口の中に突っ込み、無理矢理口を開かせる。そしてその中に流し込み、無理矢理飲ませる。
彼の手段は、無理矢理しかないのだ。


ようやく飲んだ侑。土方は一安心し、暫く寝かせておくことにした。
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