誠乃戦隊

□四、夏のアイスには気を付けろ
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本日の侑の仕事は見廻りである。最近はずっと土方の小姓として活躍していたが、今日はその土方が彼女を手放したのだ。

今日が初めての見廻りではないが、まだこの仕事に慣れない侑。未熟な彼女にとって、一緒に見廻りをするパートナーというのは重要である。パートナーを見て学び、次の仕事で活かす。それを積み重ねていくことにより、立派な真選組の一員となれるのだ。


だが…


「日高さん。何かムシャクシャするんで、アンタに一発かましてもいいですかィ。バズーカ砲」

「私を怪我させても、何もいいことありませんよ」


今日の見廻りパートナーは、一番隊隊長の沖田であった。傍から見れば、どちらが上司なのか分からない。


「ありますよ。アンタの苦痛な顔が見られる」


侑はずっと、無表情であることを心掛けた。いや、そうしなくとも毎日彼女の顔は無表情に近いのだが…。一瞬でも嫌な顔をすれば沖田につけ入られ、もっと虐められる。



「アンタ、中々やりますねィ」

少しだけ彼女を認めたのか、物騒なバズーカを下ろした沖田。

「皆さんに、沖田隊長にはくれぐれも気を付けろと警告を受けたので」

「何言ってんでィ。この純粋そうな顔が、何か企んでるように見えますかィ?」

確かに沖田は可愛らしい顔をしている。が、侑には見える。その後ろで重なるドSの顔が。










「オイどこ行くんでィ。そっちはコース外ですぜ」

地図を見直す侑。初めて廻る場所だった為、方向が分かっていなかった。

「…申し訳ありません。慣れていなくて」

「ここら辺は入りくんでるから、注意しなせェ」

「はい」

さっきのやり取りと比べると、何だか見廻りらしくなってきた。


ずっと地図を見ている侑に向かって、沖田は言った。

「地図はしまってくだせェ」

え?と思った侑であったが、隊長の命令だ。素直に懐へしまった。

「平面じゃ分からないこともありまさァ。実際に見て覚えた方が楽だ」

「はい、承知致しました」



沖田は侑の前を歩き、目印となる店をあれこれと指差す。


「あそこにあるファミレスは、長時間いると店員が偉く睨んでくるから気を付けな」

「そこのスーパーはよく土方の野郎が行くとこだから、易々とサボれやせん」

「ラーメン屋台は隠れやすいですぜ。オススメでさァ」

「定食屋は組の誰かがいることが多いんで、サボるには不向きでさァ」


さっきからこの調子だ。この男には、サボるということしか頭にないのか。
侑は侑で、ツッコミもせずに真剣に話を聞いている。

そんな彼女に、沖田は溜め息を吐きながら言った。

「ついて来なせェ」



彼の後をついて行くと、辿り着いた先は甘味処だった。

赤い毛氈の敷かれた長椅子。それに腰掛けた沖田は、隣をぽんぽんと叩いた。ここに座れと言っている。侑はそこにゆっくりと腰掛けた。


「おばちゃん、ソフトクリーム2つ。黒蜜かけてるやつな」

「あら沖田さん。またサボり?」

「違いまさァ。ちょっと休憩」


甘味処のおばちゃんとこのようなやり取りが出来るということは、沖田はかなりここに来ているらしい。



「はーい、お待たせ。ごゆっくり」

バニラのソフトクリームに、黒蜜がかけてあるそれを手に取った二人。

沖田はそれを直ぐ食べ始めたが、侑は目をぱちくりぱちくり。食べずにいると、沖田がすすめた。

「美味しいですよ。ほら、早く食べないと溶けちまう」

それもそうだ。と思った侑はソフトクリームをぺろりと舐めた。


「…美味しい」

「ここは俺行きつけの甘味処でねィ。ちょっとサボる時には丁度いい」

もう溶け始めているソフトクリーム。侑は沖田の話を聞きながら、溶け始めている所から口に入れていく。



「サボり、多いですね」

「アンタはもっとガス抜きの仕方を覚えた方がいいですぜィ」

「沖田隊長はし過ぎだと思います」

「土方さんに使われっ放しじゃないですかィ。たまにはあの頑固頭に刀突きつけたらいいんでィ」

「沖田隊長は毎日してらっしゃいますよね」



沖田はいつの間にか食べ終えており、隣でまだ食べている侑のそれを見ている。少ししか時間が経っていないが、大分溶けていてぐちゃぐちゃだ。
侑の隙を突き、食べかけのソフトクリームを取り上げた。


「あ」

「んあー、うめー」


沖田は侑のを全部食べてしまった。


「俺の金なんでねィ」

ニィ、と笑った沖田。


「そんじゃ、行きますかィ」


「………」

侑は意外と根に持つタイプだった。
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