誠乃戦隊
□一、人は見た目じゃ分からない
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「日向国から参りました。日高侑と申します。何分未熟者な故、皆様のご指南の程をよろしくお願い致します」
中途半端な時期に、特別警察真選組に入隊してきた者がいた。名前は紹介した通りである。何でも、幕府関係者に一目置かれていた為、松平と近藤がわざわざ日向に赴き、スカウトしたらしい。
新入隊士の侑は、深々と下げていた頭を上げた。それと同時に隊士たちは
「「「ははあ〜」」」
とさっきの彼女と同じように、深々と頭を下げた。そして頭を上げる。
普段は騒がしい隊士たちなのだが、今日は何だか大人しい。きちんと正座をし、真っ直ぐ彼女を見つめている。
流れるような黒髪。キリリとした漆黒の瞳。シャープな顔立ちにふっくらとした唇。出るとこは出て、締まるとこは締まっている体。彼女は世間一般で「美人」と呼ばれる類であった。見た目での欠点と言えば、愛嬌というものがないことだ。
「局長」
「ん?何かな侑ちゃん」
「真選組の方々は皆陽気で騒がしいとお聞きしていたのですが…どうなさったのでしょう」
「がはは!きっと侑ちゃんに気に入られようと礼儀正しくしてるのかもしれんな!おいお前ら、そんなことしても無駄だぞ!いつかはボロが出る!」
こんのクソ局長!と誰もが思ったが口には出さない。
「な、何をおっしゃっているんですか局長。僕たちは元々このように礼儀正しき集団」
「いや、お前いつも胡坐じゃねーか。正座、無理じゃね?そろそろ足痺れね?」
「言い掛かりはや、やめ、お…おやめになりなさい!」
「お前は意識し過ぎてオカマ口調になってんじゃねーか!」
「それより日高さん。日向からの道のりは長かったでしょう?」
近藤のことは気にも止めず、侑に話し掛ける隊士もいた。
「えぇ、とても」
「お疲れでしょう?あの、僕良かったら脚をマッサージしますよ?」
「あ、僕は腰の方を!」
「じゃあ腕!」
「それなら僕はむ…「おいテメェら。何舞い上がってんだ。調子に乗ってんじゃねーぞコラ」
スッと刀を隊士たちに向けたのは、鬼の副長土方十四郎である。瞳孔開き気味なのはいつものことなので気にしない。
一気に静まり返る一室。そして土方は舌打ちをした後、侑をちらりと見た。
「だから言っただろ。女が入るとロクなことにならねェ。浮わついて士気も下がるんだよ」
「…申し訳ございません」
さっきまで無表情だった侑だが、俯き加減に悲しそうな表情をした。
隊士たちは土方に対して怒りを覚えた。言い過ぎだろう!と。
しかし侑は直ぐに顔を上げ、土方にこう言ったのだ。
「しかし、私一人が入隊した程度で心を乱されるとは思いません。ここは素晴らしい組織です。それを支えているのは紛れもなく、隊士の皆さん一人一人。強靭な肉体と共に、精神も鍛え上げられた方々です。副長は勘違いをしておられます。もっと、皆さんを信じても良いのではないですか?」
隊士たちは目の前で菩薩を見た。そう、新人ではあるが自分の意思を持ち、あの土方に物申したのだ。胆が座っている。
何より自分たちのことを物凄く褒めてくれたことが嬉しかったのだ。普段は全くそんなことを言われたこともないから、皆照れ臭そうにしている。
一方の土方は、正論を言われ何も言い返せないでいた。悔しい。こんな小娘に、しかも今日入り立ての新入りに。
「侑ちゃん。トシはコイツらのことを信用してない訳じゃないんだ。君にあんなことを言ったのは、ただのツ・ン・デ・レだか…「何でだァァァァァ!?」
近藤の勘違いに、土方は思いっきりツッコんだ。
「トシ、あれだろ?一度冷たい態度をしておいて、それから優しい上司を演じてお近づきになろうっていうあの作戦だろ?」
「え、副長も日高さん狙ってるんスか?」
「勝ち目ねーだろそれなら」
「見た目だけはいいもんなー」
クールで二枚目な土方はそれはそれはモテる。しかし、彼の本性を知らない者から、だが。
「オイそれどういう意味だ?切腹しろ切腹。それとだ、俺は女に興味はねーんだよ。分かったか」
刀をちらつかせながら煙を吐く土方。
しかし、その言葉を聞いていた侑から衝撃的な一言が発せられた。
「恐れ入りますが、私、副長のことが好きです」
「「「「え、えェェェエエ!!!?」」」」
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