Novel
□すべて暑さのせい
1ページ/2ページ
「あぢー...なあヒカル暑くないのかよ」
「別に」
神威島に来てから初めての夏を迎えた。
この学園には夏休みと言うのは無く、相変わらずの毎日を過ごしている。
外の気温は高く、開いた窓からセミの声が騒々しく鳴いている。
この時代、クーラーは貴重視されていたため、教室や食道など多くの人が集まる所には付いているものの、各個人部屋には設置はされていなかった。
そのため、個人部屋は窓を開けるか、扇風機を使うかなのだが、扇風機は各国で2個しか配給はされていない。
ジェノックは女子に一台、男子に一台と置いてあり、一日交代で回している。
ヒカルの部屋は昨日回って来たため、しばらくは暑さとの戦いだ。
ヒカルは、いつも通り暑さに耐えながら勉強をしているが、アラタは、暑さにバテ、ベッドの上で寝転がっている状態だ。
「なー、ヒカル! 本当に暑くないのか?」
「あぁ。」
なんだよ、つめてーな
素っ気ないヒカルの反応にふてくされたのか、壁の方へ寝返りを打つ。
が、何か変な事を思い付いたのか、少し意地悪そうに口角を吊り上げ音をたてずにベッドから降りた。
やっと、静かになった。 アラタに若干のイラつきを感じつつ、ヒカルは自分の課題を続けようと、シャーペンを再びノートに滑らすが、「ヒーカル!!」と自分の真後ろから声が聞こえ、深いため息をついた。
――まったく、どれだけ僕の邪魔をすれば気が済むんだ。
一度イラつきで手が震えるも、心を冷静にしシャーペンを持ち帰る。
だが次の瞬間
「暑くないなら...こうだ!」
「な、アラタ!? 突然何をっ!」
机に向かい、勉強をしているヒカルに突然、重量が重なった。
アラタが後ろからヒカルに抱き着いたのである。
ヒカルの細い腰に手を回し、ぎゅっと体温を感じるアラタに対し、ヒカルはアラタの腕から逃れようと必死にもがいた。
「アラタっ! 暑苦しい! 離れ、ろっ!」
「やーだよ! ヒカルさっきまで暑くないって言ってたじゃん、」
アラタは意地悪そうに口角を吊り上げ、更にきゅっとヒカルを強く抱き締める。
ヒカルのすぐ横にはアラタの顔があり、アラタが息をすると同時に、ヒカルの耳に息がかかり、くすぐりなどに弱いヒカルはそれだけで、顔を赤らめた。
「っ...アラタ、だめっ」
先程から耳に当たる息のせいで、ヒカルは上手く身体に力が入らなかった。
未だにシャーペンを握る右手に変な力が入り、ぷるぷると震える。
――なんか良くわからないけど、エロい!
そんなヒカルの姿にアラタは唾をごくりと飲み込んだ。
学園生活は男女共通だが、やはり寮は男子だけである。そのため、寮内では女子と関わらないのが普通だ。
それに加え、ヒカルの顔付きは女性に近い。アラタは、他国の男子生徒がたまにヒカルの顔を教室まで見に来る気持ちも今、一瞬で理解ができた。
「ヒカル、可愛い」
その言葉をアラタが呟いた途端、ヒカルの身体はピタリと止まった。
――あ、やべっ
アラタがそう思った時には、既に遅く、ヒカルの顔は無表情になっていた。
「気色悪い。 今すぐ離れろ」冷たく言い放たれた言葉にアラタは恐怖を覚え、そろそろと手をひく。
完全に手が退いたのを確認したヒカルは、静かに立ち上がり、相変わらずの無表情で部屋から出ていってしまった。
おそらく、就寝時間ぎりぎりまで帰って来ないだろう。
アラタは血の気がサッと引き、静かに自分の布団へ戻った。
――帰って来たら、なんと言おう。
その後、ヒカルは何も言わず戻ってきて、就寝に着いたが後日どうやってアラタが謝ったか、それはまた別のお話である。
あとがき→