夏の音

□一日目
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 数分後に救急車が鳴らすサイレンが遠くから鳴り響く。
今だにユウヤさんは、上の空で何が起きたのか理解をしてない。 いや、多分。理解したくないのだろう。

 救急車が到着すれば、お医者さん達は直ちにジンさんの元へ向かった。
ジンさんは、担架へ乗せられ、僕は彼の名前などを聞かれる。
 英語が、いや勉強が苦手な僕にとって、英語での会話は全てジンさんがやってくれた事だった。
 だから、何を言っているのかさえ理解が出来なく、多分。向こうの人もそれがわかり諦めていた。

とりあえず、僕とユウヤさんはジンさんへ着いていくため救急車へ乗りこんだ。
その頃にはユウヤさんは我に返っているが、「ごめん...」
とだけ、何度も僕に言った。

 「ごめん、ジンくん...」
普段、落ち着いており静かなユウヤさんだけど、この時の彼からはそんな雰囲気を感じる事は無かった。
 「ユウヤさん! ぼく...」
 「ヒロくん、ごめん――

 今は一人にしてくれないかな?
僕に向けた微笑みは、いつもの優しい笑顔はなく、どこか悲しげで、その口元は引き釣っており
いつものユウヤさんは、まるで感じられなかった。

ユウヤさんは無理をしている。
 その考えは間違っていないだろう。
以前山野博士から聞いた話だと一年前、ユウヤさんはアルテミスでジンさんに救われたらしい。
命の恩人とまで言っているのだから、そんなジンさんが倒れたと言うのだから、ユウヤさんにとって言葉には表しきれない悲しみがあるだろう。

 ふと、僕達の目の前に居るジンさんを見る。ジンさんは変わらない白い肌に整った顔付きで、どこも体調不良などの変化は見れないし、イベント中も、ジンさんは特に体調不良を示すような行動は取らなかった。
 嫌、元々あまり感情を言動に現さないジンさんだから、そうとは言い切れない。

 ――これからどうすれば言いのだろう。
頭には、そればかりが流れ、他に考える事が出来ない。
 こんな時に何も出来ない自分が酷く情けないと感じた。

そんなとき、僕のポケットから電子音が流れる。
どうやらCCMに通信が入ったらしい。
 ――誰からだろう?
そう思いながらCCMを開くと、そこには『拓也さん』と示されていた。
大人である拓也さんの通信は、とても安心出来た。

 『ヒロか?』
 「た、拓也さん」
その声はとても安心出来て、軽くだが緊張が解けた。
だけど、ここは救急車の中。
 ――本当に今話して大丈夫なのだろうか。
そんな考えが思い浮かぶも、今は緊急事態だと割り切り、話を続ける。

 『偶然そっちに立ち寄ったんだが、お前達が居なくてな。何かあったのか?』
 「それが、ジンさんが倒れたんです。」

 何、ジンが?
信じられない、とでも言うように拓也さんが聞き返してくる。
それはそうだろう。 ジンさんが体調を崩すなんて、滅多になかったのだから。

 しばらくの沈黙が続いた。
その沈黙が僕にとってはとても怖いものだった。

信じて貰えたのだろうか。
 再び不安が押し寄せ、CCMを握る手がにわかに震えているのが、自分でもわかる。

 『そうか、ジンが...』
重い声がCCMから聞こえた。
それだけで僕の心臓は高鳴り、肩がびくりと震える。
 『わかった。 ヒロと、ユウヤも居るんだよな?』
. 「はい、居ます」
ちらりと、横隣に居るユウヤさんの方へ視線を向ける。 だが、ユウヤさんは僕の視線などには気付かずジンさんの方をじっとみていた。
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