夏の音

□一日目
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 ミゼルとの長い戦いに幕を閉じ、再び発売禁止の危機を迎えたLBXのため
 僕達は世界各国へ飛び、様々な公演に参加しLBXの楽しさを世界中の人へ伝えていた。
今日もジンくん、ヒロくん、僕の三人はA国Nシティの中央公園で体験バトルを開いていた。
 それは、沢山の人が来てくれて、「やっぱりLBXは良いですね!」とヒロくんも笑顔で感想を語っていた。

 そのイベントが終わり、僕達はNICS名義で借りているマンションへ戻るために地下鉄を使い最寄り駅まで来ていた。


 「今日のイベント大成功でしたね!」

ガッツポーズをしながらこちらを向くヒロ君に一歩後ろにいたジンくんは微笑みながら「そうだな」と言っている。
ヒロくんの隣にいた僕は微笑みただ頷いた。
 空は夕日色に染まり、暑い昼間とは違い心地好い風が僕達を包んでいる。

 今まで、一人イノベーターに居た僕にとって、誰かとそこに居るという事だけで嬉しく思ってしまう僕は単純だな、なんて考えてしまう。
 平和過ぎるこの世界。
でも、今の僕はこの世界に満足をしている。
 変わらない楽しい毎日。
実験施設に居た時より何倍も楽しい毎日を僕は過ごしていた。


 ――明日は久しぶりのオフだね、何しようか?

 久しぶりのオフが嬉しくて楽しみで喜びが込み上げ、頬が自然とつり上がって上がってしまう。
ジンくんに明日の事を聞くために、ふと振り向く。
 「ねぇ、ジンくん! 明日なにを――

 なにをしようか?
そう言おうと思ったのに、
 一瞬にして僕の世界から色が消えた。


ゆっくりと時が進む。
どこか遠くで少年が持っていた赤い風船が強い風により飛ばされる。
少女が持っていたアイスがコーンから落ちる。

そして、
 ――ぱたり...
そんな音が聞こえた気がした。
僕はただみている事しか出来なくて、足が嫌な程に震えている。
喉が焼ける様に熱く、乾いていく今すぐにでも彼の名前を呼びたいのに、それは叶わない。


 「ジンさん!!」
ヒロくんのそんな叫び声が聞こえた様な気がした。


***


 ざわざわと、周りの人達は僕達の事を見ては、何か話をしている。
 ざわめき声に混じり、セミの声が嫌な程聞こえる。
それは、日本人独特の感性があるとしても大合唱となど言えない程の雑音だった。

 ジンさんが倒れた。
夢では無い。今、目の前で起きた事が嘘では無いのは、嫌でも理解させられる。
 胸の鼓動がどんどん速くなる。
息が苦しい。胸の鼓動と共に息も速くなって行く。

 ユウヤさんは、余りのショックでか立ち尽くし、目を見開いて口をパクパクとしていた。
 周りの人達は、変わらず僕等の事を見ている。
その目が僕達に突き刺さる感覚は、とても痛かった。

 「え、えっと...救急車を呼んだ方が良いんですよね?」
. 僕の小さく呟いた問い掛けは誰にも聞かれる事は無く霧散してしまう。
咄嗟にCCMを取り出すが、手が震えてしまい上手く握れない。

 こんなときに限って、なぜ僕は予知が出来なかったのだろう。
僕が視えていれば、突然ジンさんが倒れる事は無かっただろう。

 時がゆったり流れてる様な気がした。
頭に過ぎるのは後悔ばかり。
震える手を押さえ付け、CCMに電話番号を入力する。
口が震え、何を言おうかわからなくなり頭の中がぐちゃぐちゃになってしまった。

 「た、助けてください!」

そう、ただ一言震えた声で僕は叫んだ
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