桜、舞い散る
□穏やかな時間
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「ねぇ、悟空。なんでいきなり一緒に寝たい、だなんて言いだしたの?」
隣で横になってる悟空を抱き寄せながら訊ねる。
「今日さ、昼寝した時、…桜花姉がいなくなる夢、見たんだ…」
そう言って俯き、桜花の衣服の裾を掴む悟空。
「…大丈夫。私はここにいるわ。悟空の目の前にいる」
ね?と言うと、悟空は小さくコクリと頷く。
「安心して、悟空から離れたりなんてしない。そばにいるわ」
「…うん!」
嬉しそうに悟空は笑うと桜花に擦り寄ってくる。
(愛しい…)
この笑顔を、絶やしたくない。
(でも、きっとこの手を離してしまう時が来る)
――それは、予感。
(なんだか、当たってしまいそうで怖い…)
――悟空や金蝉と出会うまでは芽生えることのなかった感情が生まれる。
(変わっていく。…私は変わってもいいのかしら。――まだ、金蝉にも悟空にも話してないことは沢山あるというのに)
それでも、彼らは何も言わず桜花に寄り添ってくれる。
桜花は横になっていると、ふと気づく。
「…っふふ」
「なんだよ」
「親子、みたいね」
「…うるせぇ」
金蝉は横になりながら悪態をつく。
しかし、
「…まぁ、悪くはねぇ」
素直で純粋な彼は、ふと穏やかな顔になって
そう言った。
「二人の間、あったかい」
「そう?」
ぎゅっ。と胸元に顔を埋めて悟空はしがみついて来る。
そっと柔らかい髪を撫でると、悟空は眠たそうに目を擦り始めた。
「おやすみなさい、悟空」
「ん…おやすみ…」
抱きしめるように腕を回し、
トントンと背中を叩いてやる。
気持ちよさそうにとろんと目を細めて、悟空は眠りに落ちていった。
規則正しい寝息をたてて。
――幸せそうな顔。
悟空の背に伸ばしていた手を、自分よりも大きくて、しなやかな手が、ギュッと包み込むように握ってきた。
言葉にせずとも伝わってくる、彼の、強く、温かな想い。
――愛しい。
ここ数週間一緒に過ごすことで芽生えていった思い。
(観世にあんなこと言っといて、情けないわね。…でも、この気持ちの止め方を私は知らない。いや、止めることなんてできないのだと、そう思う)
そっと瞼を閉じた彼の、その綺麗な顔を見て思う。
桜花は願った。
このまま時が止まればいいのに。
しかし、その願いが叶わないであろうことも桜花はちゃんとわかっていた。
(もうすぐ終わりが近づいている…そんな気がする)
最近、変な夢を見るようになった。
自分が血だらけになりながら、何かから逃げている夢。
(この夢が現実にならないことを、ただ願う)
桜花は瞼を閉じる。
最近は夢のせいで穏やかに眠れなかったが、今日は暖かなぬくもりに包まれ安心して眠ることができた。