桜と永久の約束

□銀の眼、失くしたモノ
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開かれた窓から風が吹き込む。
悟空はじーっと女の横に座っていた。
三蔵は、近くにあった椅子に座り新聞を開く。
開きながらも、内容は頭に入ってこない。
新聞の隙間から女の横顔を盗み見る。



「悟空、なにか感じるか?」


「なにか?何かって、なにが?」


「…やっぱり、なんでもねぇ」



悟空は三蔵が言わんとしていることがわからないようだった。
諦めて三蔵は視線を逸らす。
悟空は、一度眠る女を見てそれから窓の方を見た。



「んー…、なんか懐かしい匂いがする」


「匂い?」


「うまく言えないんだけど、なんか胸がキューッてなってちょっと苦しいんだけどさ、でもすごく嬉しいんだ」


「…意味がわからん」


「俺もよくわかんねぇ。でも、これだけはわかるんだ。あの時、たしかに呼ばれた気がする」


「―――そうか」



三蔵は一言だけつぶやいた。



ざわっ。



ふいに空気が動くのを感じた。
ベッドで眠る女が身じろぐ。



「ぅ…っ」


「ぁ!!起きた!!!」



悟空は立ち上がって、そばに寄る。
三蔵は新聞をテーブルに置く。



「…」



長い睫毛が震え、隠されていない片目が薄く開かれる。
開かれた瞳はどこまでも澄んだ銀。



「大丈夫か?起きれる?」



悟空は、女が起きれるように背に腕をまわし支えて手伝う。



「…ここは?」


「宿屋だよ。どっか痛むところあるか?」


「…いいえ」


「そうだ、アンタ名前は?俺はね、悟空ってんだ!!」


「ご、くう…」



女のかすれた声が囁く。



「そんで、あっちの壁の方にいるのが三蔵」



うつろな瞳はどこか遠くを見ていて、悟空が三蔵を指差すとそちらを向いた。
三蔵もこちらを向いた女を見る。
二人の視線が交わり、虚ろだった女の瞳に光が宿る。
三蔵は、彼女のどこまでも見透かしてしまいそうな銀の瞳に見惚れて黙り込む。



「「………」」



どちらも黙り込み、いつもは騒がしいはずの悟空もじっと二人を見ていた。
その時、扉の向こうから足音が近づいてきて扉が開かれる。



「うぃ〜」「ただいま帰りました。お医者さんを連れてきましたよ」
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