桜、舞い散る
□討伐命令
1ページ/5ページ
――天帝城・広間
「闘神哪吒太子、前へ」
場内はざわめき立っている。
天蓬、紫鴛、是音は黙って哪吒を見据える。
「哪吒太子のお出ましだ」
「ナマイキなガキのくせして闘神たぁな」
「身の丈が何十倍もある化物を一撃で仕留めるらしいぜ」
「何せ奴には鬼が宿ってるからな」
集まった兵たちが口々に哪吒に対し嫌味を言い合う。
「誰の腹から生まれたかも怪しいもんだ…」
そう一人の男が言うと、後ろから一つの手が伸びる。
「うぐ!!?」
「…言いてェことはもっとでかい声でしゃべんな」
「もがッ…」
その手は、西方軍大将・捲簾だった。
哪吒は天帝の前に出て膝をつく。
その後方に李塔天が立つ。
「哪吒よ、お前を呼んだのは他でもない」
「――鼻毛。まだうっすら残ってますけど」
「…哪吒…かような悪戯は水に流すとしよう」
「お前には重大な任務を命ずる。下界へ行け。私欲のままに人を喰らい下界の秩序を乱す者、大妖怪牛魔王の討伐だ」
「かしこまりました。ありがたく拝命いたします」
哪吒ではなく李塔天が応じる。
――くだらねぇ奴ら
「奴は破壊神と呼ばれるほどの力を持つ。…だがしかし、お前にかかればひとたまりもないであろう。」
「微力ながらも、必ずや仕留めて参ります」
天帝と李塔天の声だけが場内に響く。
「行ってくれような?」
――俺はどうせあんたらにとって殺人人形でしかねぇんだろ?
哪吒は冷たい目で床を見つめる。
(俺はあんた達みたいな大人にはならない)
「御意」
(絶対に―――)
哪吒は目を閉じ頭を下げた。
「それでは」
李塔天が一言告げ下がる。
それに続き、哪吒も下がろうとした。
「待て哪吒、まだ話は終わっておらん」
天帝の一言により哪吒はその場に留まる。
「前へ」
天帝のその一言により場内が静まり返る。
すると、
カッ、カッ
一つの音が響き渡る。
人だかりの中からひとつの影が現れる。
黒いローブで全身を多い、右の腰あたりにひと振りの剣を携えている。
ローブから覗く顔は、上半分を狐の面により隠しており、口元は布で覆われている。
(誰だ、あいつ)
捲簾は眉をしかめた。