桜と永久の約束

□触れた指先
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風が吹き抜けて、黒髪がさらさらと揺れる。
彼女はそろそろと動き、布団から足を出して床に足をつけた。
彼女の素足がひたりと地面に着いた。
そして、ゆっくりと立ち上がった。



「……ッ」



ふらりと彼女の体は倒れそうになる。



「!!?気をつけろ」



三蔵は彼女の身体を咄嗟に支える。
三蔵の胸に彼女は手を当てる。
月の光が二人を照らし出す。



「すみません、三蔵さん」


「別に…気にしてねえよ」



三蔵は間近にある彼女の身体を見下ろす。
すると、白い手が頬に伸ばされる。
ひんやりとした感触。


「っ!?」



三蔵の心臓がトクトクと高鳴る。



「……何すんだ」



平静を装いつつ、三蔵はぶっきらぼうに答えた。
三蔵は桜から視線を逸らす。



「すみません。少し触れてみたくて」



そう言って、細い手は離れていった
緩やかな静寂がふたりを包む。



「久しぶりに――」


「ぁ?」


「久しぶりに、こうして人に触れた気がします」



それは、以前にもこうして触れ合った奴がいるということだろうか。
胸に湧き上がる、もやもやとした感情。



「―――お前は一体何者だ」



三蔵の問いに、ゆっくり彼女の身体が動いた。



「…わかりません」



耳に心地よい声が呟いた。



「お前は空から降ってきた」


「空から?」


「ぁあ。それにお前は枷が付けられていた。
―――お前は、誰かに囚われていたのか?それとも―――罪人、なのか?」


「罪人…」


「安心しろ、お前から妖怪の気は感じない。
俺らは面倒は御免だ」


「つまり…どういうことでしょうか?」


「お前が何者だろうと関係ねぇ。大人しくしていれば何も言わん。
まぁ―――それは罪人の場合だ。どうせ、何も覚えていないんだろ」


「…はい」


「俺らは数日後にここを去る。だから俺には関係ない……と言いたいところだが」



三蔵は一度ため息をついて、言葉を区切った。



「お前の面倒は俺が見る。…お前を引き取るといったじいさんが戻ってくるまでだがな」


「なぜ、そこまで―――」


「俺がお前の―――いや、なんでもねぇ。
お前はただ世話をやかれてろ」


「…お願いします」



こうして、二人の関係は始まった。
三蔵は先程触れていた彼女の手に触れた。
触れた指先に少しの暖かさを感じた。
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