ver.ボケ

□★-勝負
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「なぁ、大竹」

「んーなに?」

「トイレ…一緒に行かない?」

「…は?」


現在の時刻は、夜中の2時。

俺らは、ある恐怖映像番組の
収録を終え、楽屋に待機していた。


「なんだよ、コンビで連れションって…」

「いいじゃん、別に」

「よくねーよ」

「もう、早く行こうって」

「なんで俺が着いてかなきゃなんねんだよ」

「が、楽屋まで迷うかも知れないし!」

「んでなんで俺なんだよ、谷岡と行けばいいじゃん」

「谷岡はトイレの中まで来れないじゃん!」


このホラー系に弱い相方、三村は、
とあるロケでお化け屋敷から脱走し
撮影中止になったこともあるほど極度のビビりなのだ。


「三村…後ろ」

「えぇ…!?おいまじやめろって!」


46歳のおっさんがこんなに
ビビりってどういう事なんだよ。


「お前、方向音痴って理由じゃなくて、ただ怖ぇだけだろ?」

「いや別に…怖くねぇし…!」

「じゃあ何でVTR見る時、収録中にもかかわらず俺のシャツの袖握りしめてたのかなー?」

「…っ!」


顔を真っ赤にして恥ずかしがる三村。

可愛いねー、相変わらず。


「大竹が行ってくれないなら俺ここで漏らしちゃうからっ」

「まじ?まぁそういうのもいいかもなー」

「…変態!」


結局、三村があまりにも騒ぐので
一緒に行ってやることにした。


「なんでトイレ故障中なんだよぉ…」


今日に限って俺らの楽屋がある階のトイレが
整備中で立ち入り禁止になっていた。

って事は、その下の階のトイレまで行かなくてはならない。


「大竹…歩くの早ぇよ…」

「つーか、歩きにくいからくっつくなよ」


三村は廊下に出てからずっと
俺のシャツの袖を両手で握りしめている。

くっつき虫かよ、コイツは。


「階段?エスカレーター?」

「階段とかこえーよ!エスカレーター!」


三村がそう言うのでエスカレーターの
下ボタンを押して、来るのを待つ。

その時、隣の窓の外から
白い光が一瞬射し込んだ。


ゴロゴロゴロッ

「ひゃぁっ…!」


三村が飛び上がり
俺の腕をぎゅっと抱く。


「おい、力強ぇよおじさん」

「だだだ!だって今!」

「ただの雷だろ、早く乗るぞ」


俺はしがみついている三村を
無理矢理払いのけ、
既に着いていたエスカレーターの
『開』のボタンを押しながら
三村を中に入れ、後に続いた。

そして『閉』を押したその時。

パチっ

と言う音と共に、エスカレーター内の
電気が全て消えた。


「やあああっ!たけええええええ!」

「っるせーよ!バカなの!?」

「なんで真っ暗なんだよぉぉぉ!」

「たぶん、雷で停電したんだろ」

「うわあああああっ!」

「お前、ちょっと落ち着け!」


三村が騒ぐから俺もちょっと焦ったけど
冷静になりポケットの中の携帯を確認した。

やっぱり、圏外になっていて、
外との連絡の取りようがない。

一応緊急ボタンっつーのを手探りで
押してみるも、何も起きなかった。


「お、大竹どこにいんの!?」

「あー?ここだよ!」

「暗くてなんも見えねーんだよ!」

「動いて探せよ!」

「お前以外の誰かに当たったらどうすんだよ!怖くて動けねーよ!」

「面倒臭ぇな、ほら」


俺は三村が居るであろう
左斜め後ろに手を伸ばした。

生暖かい手が俺の腕を掴む。


「これ、大竹の腕だよね?」

「おう」


そのまま自分の腕を自分の身体に寄せると、
三村らしきモノがくっついてきた。


「大竹…手繋いでいい?」

「勝手にしろ」

「素直じゃねーなー」

「じゃあ嫌だ」

「ごめんごめん」


俺の左手の指と指の間に
三村の右手の指と指が入ってくる。


「あー…ちょっと安心」

「ちょっとかよ」
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