報われない住人達の部屋

□画面の中の私
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私が画面の中の私を見始めたのは
ごく最近のような気がしてならない

母の勧めで気まぐれに受けたオーディションに何の因果か受かってしまった

次々と舞い込む仕事
自分ではない誰かを演じる私

そんな私を許さない人がいる

「……キスシーンがあるなんて聞いてない」

私の背中に冷たい物が押し当てられる

それは、紛れもない敵意と執着心

「ご、ごめんなさい…でも、あの、貴方仕事が忙しそうだったから言えずにいたの…」

キスシーン、ベッドシーン
異性と絡むシーンを撮る度に彼は怒り狂う

母に置いていかれた子供の様に寂しそうな顔で私を見つめる

そんな日は決まって必ず私を痛いほどに抱きしめたままで眠る
置いていかないで、と祈る様に

そんな彼の腕の中で私はそっと微笑むのだ

『誰よりも貴方は私を必要としてくれる。代役のたてられない、ただ一人の人間として…』

もし、私が誰にも真似の出来ない
唯一の女優になってしまった時
私は彼を必要とするのだろうか

抱き締められながら画面の中の私を見つめ
ぼんやりとそんな事を考えた

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