報われない住人達の部屋

□涙雨
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ないているひとがいると
めだまがでてきておそらにあがってはりつくの
たくさんになったらぜーんぶないて
それがあめになるの

そんな事を言って母さんを気味悪がらせたのは幼稚園の時だった
親に構われたくて嘘をついたわけじゃない

私には目玉が見える

嬉しくて泣く人からも悲しくて泣く人からも
大きさは違うものの必ず、ぽこりと目玉が生まれて空に上がって張り付いてる

私にだけ見えるわけじゃない、と思う
赤ん坊がじっと空を見つめていたりするのを良く見かけるのはきっとそれだ

上に張り付いた目玉は日毎に増える
目玉で空が多い尽くされた時
目玉達は一斉に泣き始める
目玉を生み出した人達が我慢して泣かなかった分を全て吐き出すかの様に

その雫が雨になって地面に落ちて吸い込まれていく

大きな目玉からは大きな雫
小さな目玉からは小さな雫

目玉だらけの空を見つめていても
見ているだけではどうして泣いているのか分からない

けれど、ベランダからそっと手を出して
涙の雫を受け止めれば温かさで分かる

冬なのに温かい雨が降ったり
夏なのに冷たい雨が降ったり

所詮割合の話だけれど
それは涙を生み出した人達がどんな事で泣いたのかで決まる


雨の日には傘をささない
人の感情の雫に晒されていると
私は一人じゃないと錯覚できる

……私に傘を傾けてくれる人はまだ現れない

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