坊主と私と○○○

□坊主と私と母の日
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 夕陽が暮れなずむ時間帯。
 寺に続く二百余りの石畳は紅く染まっている。
 愛子は石畳の中腹に座り、頬杖を付いて夕陽に照らしだされる町並みを眺めていた。
 ふう、と憂鬱を吐き出すように溜め息を吐く。
 自らの膝にある小ぶりのそれを見て、愛子は再び重い溜め息を吐いた。

「…一つしか、買えなかった」

 膝にある貧弱なそれを見て愛子はくしゃりと顔を歪ませる。
 普段はつり目がちな目元も心許なさげに垂れ下がっていた。

「あああああ…。なんでお小遣い残しとかなかったんだ自分。バカだ、アホだ、大間抜けだあああ」

 がっくりと肩を落とし、呻きなのか嘆きなのか分からぬ声を上げる。
 おおおおお。
 頭を抱えて声を上げる愛子はどこからどうみても挙動不審だ。

「あらあらまあまあ。どうしたの、アイちゃん」
「田中のばあちゃん」

 階段を石畳の脇に備えてある手摺りを頼りに降りてくるのは愛子と同じアパートに住む老婆、田中。
 曲がった腰に皺の深く刻まれた相好を崩し、田中はゆっくりと階段を下りてくる。



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