アナザー

□悪女
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『ツナガル』


珠理奈から電話があったのは
その日の夕方だった。
「珠理奈どうした?」
『由紀ちゃんが・・・
帰って来ない・・・』
「由紀が?」
『昼過ぎに買い出しに
出たっきり・・・』
「ケータイは?」
『お店に置いてった。』
「わかった。 捜してみるから
珠理奈は店で待ってろ。」
『うん・・・』
電話を切ると
麻里子は立ち上がった。
「麻里子様どうしたの?」
みなみが麻里子に気付いた。
「由紀がいなくなったそうだ。」
「由紀が?」
「ちょっと捜してくる。」
「私達も手伝うよ。」
「・・・悪いな。」
麻里子は優子を連れ車に乗り込むと
ひとまず由紀の店へ向かっていた。

「珠理奈!」
麻里子が店の扉を開けると
珠理奈が座っていた。
「麻里姉!由紀ちゃんは・・・?」
「まだ見つかってない。」
「そう・・・」
その言葉の後珠理奈が泣き出した。
「ごめんなさい・・・」
「珠理奈が謝らなくていい。」
「私が買い出し行ってれば・・・」
「だから謝るな。」
「麻里姉・・・私も捜しに行くよ。」
珠理奈がそう言った時
麻里子のケータイが震えた。
「もしもし・・・みなみか・・・」
その言葉の後しばらく
麻里子は黙った。
「・・・わかった。
私達もこれから向かう。」
麻里子はケータイを切った。
「由紀が見つかった・・・」
「本当!?」
「本当ですか!?」
珠理奈と優子が笑うと麻里子の
ケータイを持つ手が震えていた。
「早く行きましょう!」
「優子・・・運転頼む・・・」
「はい。」
優子が珠理奈を連れ外へ出ると
麻里子は店の中へ
ケータイを投げ付けた。
車中で麻里子は
ずっと窓の外を見ていた。

現場に着くと黄色いテープが
張り巡らされていた。それを見た
珠理奈と優子は目を見開いた。
麻里子は車が停まるのとほぼ同時に
飛び出してテープをくぐった。
奥には既に
みなみ達が集まっていた。みなみは
麻里子に気付くとゆっくりと
ビニールシートをめくった。
「由紀・・・」
呟いた麻里子の先には
衣服を切り裂かれ
胸を真っ赤に染めた
由紀の亡骸だった。
麻里子が拳を握り締めると
珠理奈と優子が入って来た。
「由紀ちゃん・・・」
「嘘・・・」
珠理奈は由紀に駆け寄ろうとして
みなみと佐江に止められた。
「由紀ちゃん!!
由紀ちゃん起きてよ!!」
珠理奈は二人を振りほどき
由紀に駆け寄った。
「由紀ちゃん何で!?」
冷たい由紀の体を揺すると
麻里子が珠理奈を引き離し
優子へ放り投げた。
「邪魔だ。」
麻里子は由紀の死体を調べ始めた。
「麻里子様・・・
今日はもう帰りなよ。」
みなみが麻里子に近付きながら
そう言ったが麻里子は
動きを止めようとしなかった。
「麻里子様・・・帰りなって・・・」
態度の変わらない麻里子に
みなみが怒鳴った。
「麻里子!!」
麻里子がようやくみなみを見た。
「帰れ。課長命令だ。」
麻里子は見開いていた
由紀の眼を閉じ立ち上がると
みなみに歩み寄った。
「由紀を殺した奴は私が見つける。
お前らより先に。」
そう告げて現場から去って行った。
すると珠理奈が崩れた。
「珠理奈ちゃん!?」
「麻里姉のあんな眼・・・
初めて見た。」
「眼?」
「今の麻里子様・・・
私が今まで見てきたのと
比じゃないくらい怒ってる・・・」
みなみはその場にいた全員を見た。
「絶対麻里子様より先に
犯人挙げるよ!!」

珠理奈が優子に送られ家に帰ると
鍵は開いていた。珠理奈は
静かにドアを開け中へ入った。
「麻里姉・・・帰ってるの?」
リビングへ進むと
中は目茶苦茶だった。その中央に
机に突っ伏している麻里子を
見つけた。
「麻里姉・・・大丈・・・夫?」
「・・・ああ。」
麻里子の声は震えていた。
珠理奈は一度深呼吸すると
出来るだけ明るい声を出した。
「お腹減ったよね?何か作ろうか?」
「いい・・・」
「・・・麻里姉なら大丈夫だよ。」
麻里子は黙った。
「麻里姉強いから
由紀ちゃんいなくても大丈夫・・・」
「うるせえ。」
「え・・・?」
麻里子は立ち上がると
珠理奈を睨んだ。
「血も繋がってねえのに
分かったような口聞くな!!」
麻里子が怒鳴ると
珠理奈の息が止まった。
「・・・悪い・・・
言い過ぎた・・・」
麻里子が謝る前に
珠理奈は自分の部屋へ飛び込み
扉に鍵を掛けて
ベッドに伏して泣き出していた。
しばらくして麻里子が
珠理奈の部屋の前に立った。
「珠理奈・・・さっきは悪かった。」
そう言いながら
扉に背を預け座り込んだ。
「さっきだけじゃない。今まで
珠理奈のこと守ってやれなくて
本当に悪かった。」
珠理奈はドアの前で
麻里子の声を黙って聞いていた。
「だがこれからは
そんな寂しい思いはしなくて済む。
みなみも優子も・・・
皆お前のこと守ってくれるさ。」
その言葉の後間もなくして
ドアが閉まる音がした。
「・・・麻里姉?」
珠理奈は慌ててドアを開けたが
麻里子の姿は無かった。
「麻里姉・・・一人にしないでって
言ってるじゃん・・・」

刑事課に敦子が入って来た。
「由紀の体に犯人のDNA付いてた。
調べたら前科アリだったよ。」
敦子は資料を渡した。
「浅野章弘。
連続婦女暴行で服役したけど
三年前に出所してる。」
「今どこに?」
「それは調べてよ。」
敦子は帰って行った。
「・・・・とりあえず手分けして
この浅野の居場所見つけるよ。」
他の面々は頷くと
刑事課から出て行った。

佐和子を助手席に乗せた優子は
運転しながら呟いた。
「信じられないよ・・・
由紀さんが殺されるなんて・・・」
「そうですよね・・・」
赤信号で停まった時
後部席から衣擦れの音が聞こえた。
次の瞬間麻里子が優子のこめかみに
グロックの銃口を向けていた。
鏡越しに麻里子の姿が見え
優子は目を見開いた。
「麻里子さ・・・」
「動くな。」
咄嗟にUSPを抜こうとした佐和子に
ニューナンブを向けた。
「お前もだ。」
麻里子は佐和子からUSPを預かった。
「ちょっと付き合ってもらおうか。」
「麻里子さんは
今回の捜査から・・・」
「言い訳はいい。」
「麻里子さんのお願いでも
私達は急がしいんです。」
優子が告げると
麻里子は佐和子の喉を殴った。
佐和子は咳き込みながら
喉を押さえてうずくまった。
「お願いじゃない。
命令してるんだ。」
麻里子は無線の電源を切った。

廃倉庫に二人を連れ込むと
優子からM29を預かり佐和子を
近くの柱に後ろ手で手錠で繋いだ。
「ヘンな事したらコイツを殺す。」
「冗談・・・ですよね・・・?」
麻里子は佐和子の足元を撃った。
「なんなら試してみるか?」
「・・・用件は?」
「由紀を殺したのは誰だ?」
「・・・知りません。」
優子の言葉に佐和子は優子を見た。
麻里子は優子に歩み寄ると
銃把で優子の頬を殴った。
「佐和子を見殺しにするのか?」
「知りません。」
優子を何度も蹴り飛ばした。
「誰だ?」
「・・・知りません・・・」
優子は荒い息で答えた。
再び腹を蹴られ優子はむせこんだ。
「もう一度だけ聞く。」
「知りません!」
「浅野章弘っていう人物です!!」
佐和子が叫んだ。
「どこにいるかまでは
私達も分かってません!」
「佐和子ちゃん・・・」
「お願いですから
自分の相棒を傷付けるのは
やめて下さい!!」
すると優子が
体を震わせ立ち上がった。
「麻里子さん・・・
私と勝負して下さい。」
「あん?」
「私が勝ったら・・・今回の捜査から
正式に外れて下さい。」
優子がそう言うと麻里子は
佐和子を繋いでいる手錠を撃ち
グロックを投げ捨てた。
「私が勝ったら 浅野って奴は
私の自由にさせてもらう。」
麻里子が告げると
優子は叫び声を挙げて
麻里子に向かっていった。
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