BAD GIRL BLUES

□SERIES 3
2ページ/16ページ

『Real Folk Blues』


書類整理中に
サドのケータイが鳴った。
サドは相手を確かめ電話に出た。
「もしもし?麻友どうしたの?」
サドはそう言った直後から
電話を手にしたまま
何も喋らなくなった。
しばらくしてサドは
ケータイを切って立ち上がった。
「・・・サド?」
異変に気付いた優子が声を掛けたが
サドは見向きもせず
出て行こうとした。
「おいサド。」
優子が後を追い掛けた。
「サド!」
廊下に出てようやく気付かれた。
「何ですか?」
「どうしたんだよいきなり。」
「・・・別に。」
「別にって・・・ネズミとの電話で
お前がそんなキレるわけねえだろ!」
優子がそう言うとサドは黙った。
「拉致られたのか?」
「・・・なんでもお見通しですか。」
「やっぱりか・・・」
「一人で来いって条件なんで。」
「・・・バカな事
考えてるわけじゃねえよな?」
「あん?」
サドが優子の胸倉を掴んだ。
「麻友がバカだと?」
「ネズミじゃねえお前だ!!」
「あん?」
「もっと考えろよ!」
「守るものの無えお前に
何が分かんだよ!?」
サドはそう言って優子を突き飛ばし
出て行った。すると優子の声を
聞き付けたブラックが走って来た。
「大丈夫ですか優子さん!?」
「ああ・・・」
優子はそう返し
サドが去った廊下を見た。
「失うものがねえだと?
・・・笑わせんな。」
優子はそう言って立ち上がった。

サドは言われた場所に着くと
ベレッタを抜いて中へ入った。
中へ入った瞬間
猿轡をされて手足を縛られていた
ネズミが目に入った。
「麻友!?」
サドはすぐに駆け寄って
ネズミの猿轡を外した。
「お姉ちゃん逃げて!」
「何言ってんだ。」
「私のことはいいから!」
「馬鹿なこというな。
すぐに外してやる・・・」
「危ないッ!!」
ネズミがそう叫んだ瞬間
サドは後頭部に強い衝撃を受けた。
振り向くと鉄パイプを振り上げた
男の姿が見えた。再び殴られると
サドは地面に倒れた。
「お姉ちゃんッ!!」
ネズミの悲鳴を聞きながら
サドの意識は薄れていった。

ネズミが目を覚ますと
少し離れた所に二つの影が見えた。
意識がはっきりしてくるとその影が
男とサドであることに気付いた。
「お姉・・・ちゃん?」
掠れ気味な声で呟くと
二人がネズミに気付いた。直後に
ネズミの焦点がサドに集中した。
そこには血だらけで後ろ手に
手錠で拘束されたサドがいた。
「お姉ちゃん!?」
「麻・・・友・・・」
サドの息は荒くなっていた。
ネズミの拘束は解けていたが
ネズミは構わずサドを見た。
「麻友・・・逃げろ・・・」
サドは笑ってみせた。
「何笑ってんだよッ!?」
腹を蹴られたサドは
口から血の唾を吐いた。
「やめて!!」
そう叫んで向かって来たネズミに
男は拳銃を向けた。
「元はと言えばお前が悪いんだろ?
ちょこちょこ
俺の周り嗅ぎ回りやがって。」
「・・・そうなった原因
お前自身だろうが・・・」
サドが肩で息をしながらそう言うと
男は
「うるせえな・・・」
と呟きサドの腹に二発撃ち込んだ。
それを見た瞬間
ネズミは男に飛び付いた。
「お姉ちゃんに手出すな!!」
そう叫んで男を押し倒すと
男の顔を殴り始めた。
「麻友・・・やめろ・・・」
サドがそう呟くと
ネズミの手が止まり顔を上げた。
次の瞬間下にいた男が
ネズミを押し退けた。
そのまま倒れた麻友に近付き
首を絞め上げた。
「やめ・・・ろ・・・」
顔が歪むネズミを見たサドは
そう呟くだけで
体は力無くもがくだけだった。
「殺してやる・・・」
男がそう呟いた時
背後に優子が立っていた。
優子に肩を叩かれると
男は振り向いた。次の瞬間優子は
男を蹴り飛ばした。
ネズミを放して倒れた男に
優子はさらに蹴りを入れた。
「ウチの仲間に何してくれてんだ?」
低い声でそう言った優子は
倒れている男を睨みながら
顔を踏み付けた。
「人に生まれたこと
後悔させてやろうか?」
そう言った後に顔を蹴ると
男は気を失った。優子の後ろで
ネズミがサドに駆け寄ると
サドの目は閉じていた。
「お姉ちゃん!?」
「麻友・・・逃げろ・・・」
サドが譫言でそう呟くと
後から来たブラックとヲタに優子が
「早く運べ!!」
と怒鳴っていた。

サドが運ばれると
ネズミはその場から立たずにいた。
「ネズミ?」
気付いた優子が声を掛けると
ネズミは泣いていた。
「また私のせいだ・・・」
そう言っているネズミを
優子は立たせた。
「大丈夫だ。サドは死なないから。
帰るぞ。」
「一人で・・・帰れます・・・」
ネズミはそう言うと
泣いたまま歩き出していた。

病院のベッドでサドが目を覚ますと
優子が側に立っていた。
サドが目を覚ました事に
気付いた優子はサドに
「お目覚めの所
いきなり悪いが・・・」
と切り出した。
「ネズミが行きそうな所
心当たりあるか?」
「・・・どういうことですか?」
「今朝なネズミから
手紙渡されてな・・・」
優子はネズミからの手紙を
サドに見せた。
『大島優子警部へ。
篠田麻里子警部補のこと
これからも宜しくお願いします。』
手紙にはそう書いてあった。
「・・・あのバカ・・・」
「サド・・・何か知らないか・・・」
「心当たりはあります。」
「どこだ?」
「・・・案内します。」
「無茶なこと言うな。」
「妹の自殺止めるのが
無茶なことですか?」
「・・・その怪我じゃ無理だ。」
「知らねえよそんな事。」
「後は私達がやるからお前は・・・」
「連れてくなら場所教えます。」
そう言った後黙った優子の胸倉を
サドは掴んだ。
「黙って連れてけ。」
「・・・わかった。」
優子はそう言ってサドを起こした。
「いつも悪いですね・・・」
「慣れてるよ。」
窓の外は太陽が傾き始めていた。

夕暮れが近付き
太陽が赤く染まった頃
マンションの空室に入っていた
ネズミは目の前のテーブルに
サドと一緒に撮った写真を置くと
一度笑って座った。
「お姉ちゃん・・・バイバイ・・・」
写真に向かってそう言うと
ポケットからナイフを取り出し
手首に近付けた。
手首の間近までナイフが近付いた時
背後からサドが
ネズミを抱きすくめていた。
その感触にネズミの肩が震えた。
「お・・・お姉ちゃん?」
「麻友見っけ。」
サドの声はひどく優しかった。
「懐かしいねここ。
昔お母さんと住んでた場所だ。」
「怪我してるんだから
寝てなよ・・・」
「昔もここでよく
かくれんぼしたね。」
「何いきなり。」
「その頃から麻友は私に
迷惑掛けまくりだったよね。」
「そうだよ・・・
ずっとお姉ちゃんの
邪魔ばっかしてた・・・」
「私は邪魔だなんて
一言も言ってないよ。
それに迷惑だったら
私だってかけまくってたし。」
ネズミは首を横に振った。
「そんなことないよ・・・」
「でも麻友が掛ける迷惑なんて
全然迷惑に入んないよ。
むしろ嬉しいくらい。」
「嘘だよ・・・」
「嘘じゃないよ。」
サドはネズミに回した手に
少し力を込めた。
「だからさ・・・
もっと私に迷惑掛けてよ。
もっともっと私の傍にいてよ。
これから
私にも迷惑掛けさせてよ・・・」
「何で・・・」
ネズミはサドの手に
自分の手を置いた。
「何でお姉ちゃんは
こんな私に優しくしてくれんの?」
「たった一人の家族だから。
それが理由じゃダメ?」
ネズミはナイフを投げ捨てると
振り返ってサドの胸に抱き着いた。
「お姉ちゃん・・・」
「何?」
「死のうとして・・・
ゴメンなさい・・・」
「いいからいいから。」
サドはそう言って
ネズミの頭を撫でた。
「帰ろう。」
ネズミは頷いた。
「麻友・・・悪いんだけど肩貸して。
ちょっと・・・
お腹痛くなってきた・・・」
そう言われてネズミは笑うと
肩を貸した。

ネズミを事務所に送り
サドも病院に戻った。
「サド・・・
あの時の言葉撤回しろ。」
サドを寝かせた優子はそう言った。
「あの時のって・・・?」
「私にだって守るものはあるぞ。
命に換えても守りたい者達が。」
優子はそう言って
病室から出て行った。
優子の背中を見たサドは
少し笑ってから目を閉じ
眠りについた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ