世界は闇で満ちている

□第一章
2ページ/37ページ

『エリーゼのために』


日が暮れてきた頃
彩は一件のバーの前に着くと
看板を見上げながら電話を掛けた。
『もしもし彩か?』
「課長さん。これから乗り込みます。」
それだけ言って電話を切ると
ドアを開け中へ入った。
「まだ開店前ですよ。」
カウンターにいた男がそう言うと
彩はバッジと令状を見せた。
「警察です。これからこのお店
家宅捜索させてもらいます。」
「家宅捜索?何の為に?」
「お分かりでしょう。」
そう言いながら令状を見せた。
「奥の部屋も見せてもらいます。」
そう言って歩き出した。
「ちょっとアンタ!?」
男の言葉に彩ほ振り返った。
「まず私の相棒返してもらうよ。」
ドアを開けると
椅子に縛り付けられた
遥香の姿があった。
「ぱるる!」
彩が駆け寄り縄を解くと
サイレンが聞こえてきた。

勝手に乗り込んだ事を店先で
課長の麻里子に怒られた二人は
男達が検挙されるのを外から見ていた。
「手柄は無しか。」
遥香が溜息を吐きながら呟いた。
「スタンドプレーで相殺って事だね。」
彩はそう言うと腕時計へ目を向けた。
「もう五時半じゃん!ぱるる悪い。
私もう上がるから。」
「またデート?」
「そんなとこ。早くしないと
間に合わないから。」
彩はそう言って走り去って行った。
「仕事より大事って
どんな人だよ・・・」

彩は病院へ入ると
いつものように受付に声を掛け
いつものように階段を駆け上がり
『柏木由紀』と書かれた病室へ入った。
「姉さん!ただいま!」
「ただいまってここは家じゃないでしょ。」
ベッドに横になっていた由紀は
読んでいた雑誌を閉じた。
「いいじゃん。姉さんいるんだから
家みたいなもんだよ。」
笑みを零した由紀の傍らに座ると
今日の事件の事を話していた。

面会時間が近くなり彩は病室を後にした。
帰り道を歩いていた時
女とすれ違った瞬間
「この寄生虫が。」
という声が聞こえ振り返ったが
辺りはいつもの人混みだった。
「さや姉?」
その声とともに肩を叩かれると
遥香が立っていた。
「ぱるる。」
「デートは終わり?」
「まあな。」
「コッチはさや姉の分まで
始末書書かされて残業だったんだよ。」
「悪かったな。」
「相手どんな人なの?
まだ紹介されたことないんだけど。」
「そのうち紹介するから。」
そう言いながら歩き出した。
「またそうやってはぐらかして!」
遥香はそう言いながら後を追っていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ