悪女


□season7
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『concrete jungle』


「今日からでしたっけ?」
若干浮き足立った優子が
みなみに話し掛けた。
「そうだけどアンタは新人来ると
やけに嬉しそうだね。」
「そりゃ後輩が
来るわけですから!」
みなみが溜息を吐くと
優子と入れ替わるように
麻里子が近付いてきた。
「今日からにしては遅いな。」
「いろいろとあるから
午後からだって。」
「資料とかは?」
「あるよ。」
みなみはそう言うと
資料を麻里子に渡した。
「この人。」
「・・・大場か。」
麻里子は資料を読みながら
コーヒーを口にした。

美奈は警察署へ向かう途中
昼食を取りに手近な
ファミレスへ入った。
平日ということもあってか
あまり混雑はしていなかった。
注文を頼みしばらくすると
二人組の男が入って来た。
ウェイトレスが近付いた瞬間
二人は猟銃を取り出し
天井を一度撃ち抜いた。
客達が悲鳴を挙げるなか美奈は
咄嗟にテーブルの下に伏せた。

ファミレスの非常警報から
すぐに警察署へ通報が入った。
「まだ新人の子来てないけど。」
「挨拶ならとっとと
事件終わらせればいいさ。」
みなみと麻里子を筆頭に
刑事課の面々は現場へ向かった。

ファミレスはカーテンが
閉められていた。
店を囲むと男が一人
人質のウェイトレスを連れ
顔を出し要求を告げた。
「・・・金と逃走用の車か。」
「ベタな要求だな。」
みなみの背後で麻里子が呟いた。
「どうする?突入する?」
「優子使えばなんとかなるが
中の状況が分からない事には
どうしようもないだろ。」
みなみは頭を掻いた。
「鑑識で何か無いの?」
「サーモグラフィ使えば
中の状況が少しは分かるんじゃ
無いでしょうか?」
彩佳が提案した。
「とりあえず中の人達の
動きだけでも知りたいから
縦と横両方に設置して。」
「分かりました。」
彩佳達が鑑識の車に戻ると
麻里子と優子も動き出した。

美奈はテーブルの影から
様子を眺めながら
男達の目が離れる度に
少しずつ動いていた。
男の一人に近付き背後を向いた瞬間
美奈は物影から飛び出し
男の猟銃を掴んで頬を肘で殴った。
走って来たもう一人の男を
蹴り飛ばすと猟銃を投げ捨てた。
「早く逃げて!」
そう他の客達に叫んだ瞬間
後頭部に銃口か当てられた。
「え・・・?」
美奈は目を丸くした瞬間
膝裏を蹴られ倒れた。
振り返ると厨房のアルバイトの男が
猟銃を向け 立っていた。
「正義感ぶったのが
仇になったな。」
すると最初に殴り飛ばした男が
美奈を殴り始めていた。
「女のくせに生意気な!」
息が荒くなった美奈が
厨房の方へ投げ飛ばされた時
ドアが壊され
麻里子とみなみが飛び込んで来た。
麻里子とみなみがそれぞれ
男の右腕を撃つと
アルバイトの男は厨房へ逃げ
倒れている美奈を人質に
取ろうとした。直後に銃声が轟き
右腕を撃たれ倒れた男の
向かい側のスタッフ口から
優子と明音が入って来た。
二人は美奈を見た瞬間
「大丈夫ですか!?」
と駆け寄っていた。
二人に手錠を掛けた
麻里子とみなみが顔を合わせた。
「彼女って・・・」
「あの子だね。」
優子と明音に抱えられた
美奈の前へ二人は歩み寄った。
「お前か?
今日から来る新人っていうのは。」
「え?あ、はい・・・」
美奈が頷くと
麻里子とみなみが溜息を吐くと
「よろしくね。」
と優子は笑顔を浮かべ
美奈と握手をしていた。
「随分と派手な歓迎会だな。」
麻里子が呟いた。

外へ出ると美奈は彩佳達に預けられ
手当てをされていた。
「このくらいなら
入院とかは大丈夫そうだね。」
警察署へ戻る鑑識の車中で
彩佳にそう告げられ
美奈は胸を撫で下ろした。

署へ戻ると絆創膏を貼った顔のまま
刑事課を訪れた。
みなみ達は既に戻っていた。
美奈はみなみのデスクの前に立つと
敬礼をした。
「本日付けでこちらに配属になった
大場美奈巡査です。
よろしくお願いします。」
「よろしく。わざわざ来なくても
良かったのに。」
みなみはそう言いながら
握手を交わした。
「自己紹介とかは各々聞いてね。」
そう言ったみなみの視線は
美奈の胸に下りていた。
「何か?」
「いや。それじゃよろしく。」
美奈が玲奈の下へ行くと
みなみはデスクにうなだれ
誰にも聞こえないほどの声量で
「何だよなんだよ・・・
胸があるから何だってんだよ。」
とぼやいていた。
一通り挨拶し終えた頃
麻里子が戻って来た。
「篠田麻里子だ。」
麻里子は握手の代わりに
新しい警察バッジと
ホルスターに収められた
2.5インチモデルのコルト・パイソンを
美奈に渡した。
「思ってたよりも小さいから
これぐらいが丁度いいだろ。」
美奈はパイソンを抜いて
手にしていた。
「無闇に使うなよ。」
麻里子はもう一枚
M4A1の写真も渡した。
「こっちは非常時用のライフルだ。
みなみから許可が出た時に
携行する銃器だ。」
麻里子はそう告げて
自分のデスクに腰を降ろした。

美奈は早速その晩
「この街の刑事になったら
この店は覚えとかないと。」
と歓迎会も兼ねて
由紀の店に連れて来られた。
店のドアを開けると
見慣れない顔に由紀は首を傾げた。
「誰さん?」
「今度ウチに来た新人。」
麻里子はそう言いながら
いつもの席に座った。
「よろしくね。えーと・・・」
「美奈です。」
「美奈さんね。よろしく。」
由紀は笑顔で挨拶すると
人数分のコップを珠理奈に預け
珠理奈がテーブルに並べていた。
「あっちが柏木由紀で
隣にいるのが小嶋陽菜。
今コップ並べてるのが松井珠理奈。
それでここの店は私達の行きつけ
ってヤツ。」
みなみが説明した。
「ちなみに由紀と珠理奈は
麻里子様の一応友人と妹で
小嶋さんは優子の友人。」
「・・・一応?」
「とりあえず座りなよ。」
由紀が促されるままに座ると
美奈がみなみに話し掛けた。
「一応ってどういうことです?」
「簡単に言えば一戦超えてんの。」
すると珠理奈が
美奈に近付いてきた。
「麻里姉にヘンな事したら
許さないからね!」
それだけ言って立ち去るとみなみが
「ね。」
と言っていた。奥では由紀が
一瞬だけ美奈を睨み付けていた。

美奈が酔いつぶれないうちに
店を後にすると由紀が麻里子から
昼間の籠城事件のあらすじを
聞いていた。
「大変な初日だったこと。」
「まあ洗礼浴びたワケだから
大丈夫だろ。」
麻里子が酒を一口呷りながら
そう返した。
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