アナザー

□villain
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サドのケータイが鳴った。
ネズミ用の着信音が聞こえ
通話ボタンを押した。
「麻友どうした?」
電話の向こうから声は聞こえず
泣き声だけが聞こえてきた。
「・・・麻友?」
異変に気付いたサドは
慌てて刑事課から飛び出した。
「サド?」
優子が出て行くサドの後を
追い掛けた。

優子と共にネズミの事務所へ行くと
入口の鍵は開いていた。
「麻友!?」
ドアを開けると
部屋の中は散らかっていた。
床に落ちていた
ネズミの護身用のナイフを拾った時
隣の部屋から物音が聞こえた。
「麻友・・・」
隣の部屋へ入った直後
サドは悲鳴を挙げ腰を抜かした。
「サド!?」
優子が中を見ると
そこには脇腹を刺され
裸で気を失って横たわる
ネズミの姿があった。
「麻友!!」
サドはネズミに駆け寄り
ジャケットでくるんで
急いで病院へ向かった。

サドは肩を震わせながら
手術室の前にいた。
「サド・・・ネズミなら心配ない。
いつもそうだったろ?」
「分かってます・・・」
「だから落ち着け。」
すると執刀医が出て来た。
「先生・・・麻友は?」
「命に別状はありません。
ただ・・・」
「ただ?」
「性的暴行の痕が見られました。」
「え・・・?」
「痕跡を見る限り複数の人間から
暴行を受けています。」
医者がそう言って立ち去ると
サドへ膝から崩れ落ちた。
「クソ・・・」
床を殴りつけながら
泣いているサドを見ていた優子は
「あの時とま同じだ・・・」
と呟いていた。
握り締めた拳の中に食い込んだ爪が
床に滴り落ちた。

病室に運ばれ眠っているネズミを
サドは黙って見ていた。
「ブラック達には連絡して
緊急配備は掛けて貰ってる。」
「・・・なんでですか?」
「・・・サド?」
「なんで麻友ばっかり
こんな目に遭うんですか?」
サドは優子の方を掴んだ。
「なんで私じゃなく
麻友なんですか!?
麻友が何したんですか!?」
「サド落ち着け。」
「私は何されてもいいです!!
もうこれ以上麻友を
傷付けないで下さい・・・」
そう言って優子に抱きついたまま
崩れ落ちた。
「なんで・・・なんで・・・」
サドのそれ以上の言葉は
泣き声にかき消されていた。

翌日サドが出勤してくると
優子達は目を丸くした。
「サド・・・」
「私なら大丈夫です。」
サドの声色は低かった。
「でもお前・・・」
「私も捜査に参加します。」
「傍にいてやれよ。」
「私が近親者だから
捜査には参加するなと?」
「そうじゃない。
今彼女に必要なのはお前なんだよ。
犯人逮捕するより
ネズミのこと助けてやれ。
それも刑事と家族の仕事だ。」
優子がそう言うと
サドは踵を返した。

ネズミの病室に入ると
そこにネズミの姿は無く代わりに
ネズミのケータイが置かれていた。
開くとメール作成の画面が
表示されていた。そこには
『今からアイツら捕まえる』
という文字と住所が一件
書かれていた。
「麻友・・・」
サドはケータイを握り締め
病室から飛び出していた。

メールに書いてあった場所の
廃倉庫へ入ると目の前に倒れていた
ネズミを見つけた。
「麻友!!」
駆け寄ろうとした瞬間
背後から頭を殴られ気を失った。

「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!」
声が聞こえ目を覚ましたサドは
猿轡をされ手足を縛られ
寝転がされていた。
「お姉ちゃん!!助けて!!」
目の前には裸に剥かれたネズミが
男達に押さえつけられ泣いていた。
サドは猿轡越しに悲鳴を挙げた。
すると
「あんなメールだけで来るとは
さすがは妹思いのお姉さんだな。」
という声が頭上から聞こえた。
頭を上げると
見覚えのある男が立っていた。
サドが再び叫ぶと
男はネズミに群がる男達に
合図を出した。
その瞬間ネズミの悲鳴が挙がった。
「イヤ!!イヤだやめて!!
お姉ちゃん助けて!!」
ネズミは男達を振りほどき
サドのほうへ逃げようとしたが
すぐに引き戻された。
サドは必死に首を横に振り
叫び続けていた。
「そろそろいいんじゃね?」
ネズミの上にいた男が
服を脱いでネズミの中へ
無理矢理ねじ込んだ。
「イヤァーッ!!」
ネズミの悲鳴が響き渡り
サドは顔を歪め涙を流しながら
地面に額を打ちつけていた。

事が済む頃には
二つの泣き声は掠れかけていた。
「そろそろいいだろ。」
その声でネズミから男達が離れると
サドは左脚を撃たれ悲鳴を挙げた。
猿轡を外されると
サドは男を睨んだ。
「殺してやる・・・」
「あ、そう。」
男がそう言った時
ネズミに向け振り上げられた
ナイフが光った。
「やめろ!!」
サドがそう叫んだ時
ナイフが振り下ろされた。

ネズミの胸から噴き出した血が
腹の上の男に飛び散った。
「麻友・・・」
サドが悲鳴を挙げると
男達をネズミから離した後
男はサドの縄を解き
ポケットから取り出したリモコンの
スイッチを押しその場から
立ち去った。
起動音とともに
爆弾のタイマーが作動した。
「麻友・・・」
サドはネズミに駆け寄ると
ジャケットを脱いで
痙攣しているネズミを包んで
抱きかかえた。
「大丈夫・・・大丈夫だからね。」
サドはそう言いながら
ネズミを抱き抱え左脚を引きずり
外へ出た。出た瞬間に爆弾は爆発し
爆風でサドは吹き飛び拍子に
ネズミが地面に転がった。
砂埃にまみれ
飛び散った破片で傷だらけの顔で
サドはネズミに這いずりながら
出来るだけの笑顔を浮かべながら
近付いた。
「すぐに・・・
病院に運んであげるからね・・・」
その時つがいが外れた鉄扉が
サドの左脚に倒れ込んだ。
「ウッ!!」
サドが必死に鉄扉を退かし
ネズミを持ち上げようとした時
二つのサイレンが聞こえてきた。
「サド!!」
車から降りた優子が
サドに駆け寄り抱き起こした。
「早く・・・麻友を・・・」
サドを一度引き離すと
救急隊員がネズミを診始めた。

救急車の陰で毛布を被って
震えていたサドの目に
黒い袋に入れられようとしている
ネズミの姿が見えた。
「何してんだよ・・・」
歩き出そうとしたサドを見て
救急隊員と話をしていた優子が
サドを止めた。
「サド!!」
「んなことしてねえで
さっさと麻友を病院に運べよ!!」
「サド!!ネズミはもう・・・」
優子の言葉にサドは固まった。
「何・・・だと・・・?」
「・・・即死だったそうだ。」
優子は目を閉じてそう言った。
「嘘だ・・・麻友が・・・
麻友が死ぬわけない!!」
サドは優子の胸倉を掴んだ。
「早く麻友を
助けてあげて下さい・・・」
「もう無理なんだ・・・」
「お願いします・・・
約束したんです・・・
大丈夫だって・・・
必ず守るって約束したんです・・・
お願いだから麻友を・・・」
サドはそのまま泣き崩れた。
その横で死体袋に入れられた
ネズミが救急車に乗せられた。
「お前も早く病院に・・・」
優子はそう言うのが精一杯だった。
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