omnibus

□RED COMMANDER
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いつものように
麻里子達が店で飲んでいると
由紀が思い出したように
麻里子を店の奥へ呼んだ。
「何だ?」
「今日さ・・・
コレが送られてきててさ。」
由紀が差し出した封筒は
店の住所で宛名が麻里子だった。
「誰からだ?」
「まさか脅迫状とか!?」
「そのまさかかもな。」
封を開けると
チケットが三枚入っていた。
「何だコレ?」
チケットと一緒に
手紙も入っていた。
「いつかのアイドルの彼女だ。」
送り主には『柏木由紀』
と書かれていた。
「コレって・・・
もしかしてゆきりん・・・?」
「あの時は命懸けで守っていただき
本当にありがとうございました。
来月そちらでライブがあるので
もしよろしければ
私に似てる友人と妹さんで
いらして下さい。
以前のお礼に人数分のチケットを
送らせていただきました。だとさ。
どうする?行・・・」
「もちろん。」
麻里子が言い終えるのを待たずに
由紀は答えた。
「そう言うと思った。」
麻里子は
手紙とチケットを封筒に戻し
由紀に預けた。
「麻里子も行くでしょ?」
「まあ。二人が行くなら。」
「それじゃこの日は空けてね。」
「はいよ。」
由紀の満面の笑みを見て
麻里子も笑顔を浮かべ
店のほうへ戻った。

ライブ当日になり
麻里子は約束通り非番を入れた。
夕方になりライブ会場へ行くと
既に人だかりが出来ていた。
麻里子は腕時計を見た。
「・・・開場まで
まだ一時間近くあるぞ。」
「やっぱり人気グループだと
こんなんじゃない?」
珠理奈がそう言うと
麻里子は辺りを見回した。
「由紀は?」
「グッズ買いに行った。」
「いつの間に・・・」
「だって由紀ちゃんって
筋金入りのドルヲタでしょ?」
「まあな。」
「いつから?」
「・・・高校時代に家に来る時は
大量のグッズ持って来たな。」
「本当に筋金入りだね・・・」
珠理奈が苦笑いを浮かべると
手持ちのショルダーバッグに
溢れそうな程のグッズを買い込んだ
由紀が戻って来た。
「買い込んだな・・・
中にもあるんだろ?」
「分かってるよ。他の人と
交換とかもしてきたから。」
「こんな短時間で・・・」
「それよりもさ。
この会場のスタッフ
あんまり感じ良くないね。」
「何かあったのか?」
「機材かなんか運んでたんだけど
子供がぶつかったのに謝らないで
そのまま中入ってっちゃった。」
「忙しいんじゃないか?
大人数のグループだし。」
「そんなもんかな?」
「知らないが。」
「それより由紀ちゃんは
何交換してたの?」
珠理奈が聞いてきた。
「生写真とか。さしこにたかみな。
後は優子とか?」
「・・・少し私怨が
入ってる気もするな・・・」
麻里子がそう言うと
由紀は周りを見渡した。
「それにしても麻里子様に似てる人
いるのに気付かないね。」
「いるとは思わないだろ。」
麻里子が小さく笑った。

「いいな・・・
麻里子さん達は・・・」
優子が自分のデスクに頭を落とし
目の前の書類に息を吹きかけた。
「暇そうだね。優子は。」
みなみが溜息混じりに呟いた。
「やる気が出ないだけです。」
「暇なら例のテログループの情報
まとめな。
上からのお達しなんだから。」
「大変ですね。中間管理職も。」
「やかましい。」
みなみが書類に目を通した。

受付にチケットを見せると
三人は特別席に案内された。
「招待されただけの事は
あるわね。」
由紀は嬉しそうに口を開いた。
開演時間が近付くと珠理奈が
「トイレ。」
と立ち上がった。
「麻里姉も行こうよ。」
「はいはい・・・」
麻里子が立ち上がると
由紀が麻里子へ目を向けた。
「もうすぐ始まるよ?」
「どうせ『overture』だろ。
終わる頃には戻るさ。」
麻里子はそう言うと珠理奈を連れ
一度会場から出た。
「モバイル会員のくせに。」
由紀がそうボヤいてまもなくして
会場内が暗転した。
『AKB48!』
「キター!!」
『overture』が流れ出すと
由紀は立ち上がった。
メンバーが現れ
ステージの照明が点いた直後
音が止まった。
「なに?機械の故障?」
由紀は辺りを見回しながら呟くと
観客だけでなくメンバー達も
ざわつき始めていた。
次の瞬間破裂音が聞こえた。
由紀はステージへ視線を戻した。
「今のって・・・銃声じゃ・・・」
そう考えた時目出し帽を被った男が
ステージ脇から姿を現した。
「誰だお前!?」
「邪魔だぞ!!」
観客が罵詈雑言が投げかけられた。
「誰ですか?関係者じゃないなら
はけてもらって・・・」
たかみなが男へ声を掛けると
男は太股に装着したホルスターから
キンバー・ゴールドコンバットUを抜いて
天井へ一発放った。
直後にあらゆるドアから
武装した男達が入って来て
それぞれのライフルを
天井へ乱射した。悲鳴が聞こえると
ステージの男が再び引金を引いた。
「今からココを占拠します。
我々に従っていれば
安全は必ず保証します。
皆様は大事な人質です。
大変な御迷惑お掛けしますが
ご了承の程宜しくお願いします。」
男がそう言うと
ステージに昇った数人の部下達が
茫然としているメンバー達を
ステージから退かせた。
「麻里子・・・珠理奈・・・」
由紀は二人が出て行った扉を見つめ
両手を合わせ握り締めた。
「お願い・・・無事でいて・・・」

珠理奈が個室から出て来た時
銃声が聞こえた。
「今の・・・銃声か?」
麻里子が目を見開いた時
無数の悲鳴が聞こえてきた。
麻里子は咄嗟に天井の エアダクトを見上げた。

部下の男がトイレを見回り
出て行くのをエアダクトの中から
珠理奈の口を塞いで眺めていた。
麻里子は男が出て行くのを確認して
珠理奈の口から手を外し
口の前に人差し指を立てた。
「何アイツ・・・」
「多分ココの会場は占拠された。」
「占拠!?」
「入る前に由紀がぶつかったって
言ってたスタッフ達だろう。
メンバーと観客で相当の
人質が取れるだろう。」
「・・・由紀ちゃんが・・・」
「珠理奈はこのまま
ココを通って外へ出ろ。」
「麻里姉は?」
「由紀を助け出す。」
「そんな無茶だよ・・・」
「すぐに警察に連絡が入るだろう。
珠理奈はココを出て
みなみ達に合流するんだ。
いいな。」
「でも・・・」
「ケータイの電源は入れておく。
みなみ達に会ったら
コッチから連絡するまで
絶対に私に交信するなって
伝えてくれ。分かったな。」
「うん・・・」
「重要な役割だ。」
「分かった。」
「頼んだぞ。」
そう告げた麻里子が
ダクトを降りると
珠理奈は匍匐前進で
ダクトの中を進み始めた。
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