マジすか

□その他
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『堕天使のバラッド』


マジジョに補習があるとは
思ってもいなかった大歌舞伎は
小歌舞伎を先に帰し
一人で夜道を歩いていた。
「あんたが明日香の姉さんか?」
その声に振り返ると
顔に絆創膏を貼った女を中心に
大勢の人間が並んでいた。
「誰だ?」
「この前妹さんに
遊んでもらった者です。」
大歌舞伎は人数を見て一度
舌打ちすると前に走り出した。
「待てやコラァッ!」
大歌舞伎は物陰に隠れると
小歌舞伎にメールを入れた。
『帰りは遅くなる』
そう送った時背後から
「何してんだ?」
という声が聞こえて振り返った。
そこにはシブヤが立っていた。
「シブヤか・・・」
大歌舞伎は一息着くと
シブヤを見た。
「お前・・・私の家知ってるな。」
「ああ?」
大歌舞伎はケータイを
シブヤに渡した。
「コレ家にいる
小歌舞伎に渡してくれ。」
「は?」
「それからお前も早くここから
逃げたほうがいい。」
大歌舞伎はそう言うと
再び走り出して姿を消した。
「なんたアイツ?」
シブヤは首を傾げ歩き出した。
大歌舞伎は逃げ場を失い
路地裏に追い込まれていた。
「やるか?」
大歌舞伎は
半ばやけくそに吐き捨てた。
「は?
喧嘩しに来たわけじゃねえし。」
「なに?」
「妹さんの代わりに
お礼させてもらいますよ。」
大歌舞伎はそう言われた瞬間
頭を殴られ気を失った。
「よし連れてけ。」
大歌舞伎を持ち上げると
何処へ連れ去った。

玄関のチャイムが鳴り
小歌舞伎が出ると
シブヤが立っていた。
「シブヤ・・・さん?」
「大歌舞伎がコレ渡してくれって。」
シブヤは大歌舞伎のケータイを渡し
帰っていった。
「姉貴?」
小歌舞伎はケータイを握りしめると
家から飛び出していた。

大歌舞伎は倉庫に連れて来られると
江戸時代の拷問のように
両手を広げて木材に縛り付けられ
吊されていた。その状態では
女達に殴られ放題だった。
顔中から血が流れ瞼も腫れ上がり
視界がぼやけていた。
「まだ気失うにははえーぞー!」
女達の声は明るかった。
大歌舞伎が虚ろがちな目で睨むと
髪を掴み上げられた。
「こんなもんかよ・・・
オメーらは・・・」
大歌舞伎は強がってみせた。
女は大歌舞伎の頬にナイフを滑らせ
血の筋を作ると鉄パイプを手にして
大歌舞伎の腹を殴った。
「減らず口って言葉
知らねえみてえだな。」
「お前らこそ弱虫って言葉
知らねえみてえだな・・・」
「あ?」
大歌舞伎は
背中から鉄パイプをくらった。
顔を歪ませるのも痛みが走った。
大歌舞伎が顔を横に向けると
窓の外から小歌舞伎が覗いていた。

小歌舞伎が大歌舞伎を探していると
うっすら明かりが点いた
倉庫を見つけた。中を覗くと
ボロ切れのような大歌舞伎の姿が
見えた。小歌舞伎が思わず
乗り込もうとした時
大歌舞伎と目が合った。
[逃げろ。]大歌舞伎は
眼で小歌舞伎に言っていた。
「どこ見てんだよ!」
大歌舞伎は頬を殴られた。
小歌舞伎は頭を伏せた。
「月が綺麗だったからよ。」
「は?頭イカレたか?」
女達は笑い出した。
「お前らより
イカレることがあっかよ?」
「んだと?」
大歌舞伎はまた頬を殴られた。
その音が聞こえてきた小歌舞伎は
倉庫の外で
小さくうずくまっていた。
「やめろッ!」と叫びながら
乗り込みたかったが
声が出なかった。逃げようにも
体が固まってしまい足が動かず
小歌舞伎は自分の足を殴った。
(動け!動け・・・)
心でそう願っても
体は言うことを聞かなかった。
間もなくして倉庫の中から
大歌舞伎の悲鳴が聞こえると
耳を塞いで
さらに小さくうずくまった。

大歌舞伎は言葉少なくなっていた。
そんな大歌舞伎の顔を
女は覗き込んだ。
「姉妹揃って弱虫かぁ?」
次の瞬間女の額に
大歌舞伎が頭突きを喰らわせた。
「明日香は弱虫じゃねえ!
弱虫はテメエらだろ!」
大歌舞伎がそう言った時
腰のところに鋭い痛みが走った。
「ウアアアアァァァッ!」
後ろにいた別の女が
大歌舞伎の腰に
警棒型のスタンガンを当てていた。
「どうした?」
「・・・なんでもねえよ。」
「みっともねえ悲鳴挙げてたぞ?」
「別に。最近腰が凝ってたから
丁度よかった・・・」
大歌舞伎にもう一度
スタンガンが当てられた。
「アアアァァッッ!」
さっきよりも
悲鳴の声が上がっていた。
「さっきの言葉、取り消せよ。」
「寝言言ってんじゃねえぞ。
大勢で武器持たなきゃ喧嘩出来ねえ
弱虫さん達よ。」
「だから喧嘩じゃねえって
言ったろ。」
女達は思い思いに
大歌舞伎を殴り出していた。
それが小1時間程続くと
大歌舞伎は気を失っていた。
「もう終わりかよ。
つまんねえ奴だな。」
女がそう言うと全員出て行った。
女達が出て行った反対側の扉から
小歌舞伎が駆け寄ってきた。
「姉貴!?」
小歌舞伎は震えの止まらない手で
大歌舞伎の両手を縛っている縄を
解いた。
大歌舞伎はそのまま地面に倒れた。
「姉貴!姉貴!!」
そう叫んだ小歌舞伎の目に
捨てられたナイフが
飛び込んできた。小歌舞伎は
そのナイフを突発的に拾うと
「姉貴・・・今までゴメンね。」
そう呟いて自分の首に向けた。
ナイフを持つ手に力を入れた瞬間
大歌舞伎の手がその手を止めた。
大歌舞伎の手から血が流れ落ちた。
「何しようとしてんだ・・・?」
「・・・だってこれ以上姉貴に
迷惑掛けたくない!」
小歌舞伎がそう言うと
大歌舞伎は力無く笑った。
「迷惑?
お前がいつ私に迷惑掛けた?」
大歌舞伎はナイフを投げ捨て
血まみれの手で
小歌舞伎の胸倉を掴んだ。
「何が一番迷惑か少し考えろ。」
大歌舞伎の眼は全身の痛手とは
比べものにならないくらい強く
小歌舞伎を睨みつけた。
「私より先に死んだら
ぜってー許さねえぞ。」
「姉貴・・・」
小歌舞伎は
声を挙げて泣きついていた。

大歌舞伎の意識が落ちつくと
二人は家に帰った。
「姉貴結構軽いんすね。」
「まさかお前の背中に乗る日が
来るとはな。」

「遅かったなオメーら。」
家に着くと頼まれてもないのに
留守番をしていたシブヤが
笑顔で出迎えた。
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