マジすか

□その他
8ページ/16ページ

『ホルモン焼き』


「あんたが今度のラッパッパの一人の
ヲタさん?」
じゃんけんで負け
ホルモンを買いに行く途中
不意に後ろから声を掛けられた。
振り返ると矢場久根の連中が
立っていた。関わりを避けようと
歩き直そうとすると
前にも集団がいた。横も
逃げられないように囲んでいた。
「とりあえず
ここじゃ周りに迷惑だから
アタシらについて来てくんない?」
そう話したリーダーらしき女が
ヲタの肩に腕を回した。
「オラオラ!それでも四天王か!?」
ヲタは手を背中の後ろに回され
爪先だけを地面に着け
吊り上げられていた。
顔は血だらけで腫れ上がり
視界も上手く開かなかった。
リーダーの女が肩で息をしている
ヲタの髪を掴み上げた。
「今度のラッパッパは
こんなに弱いんですかあ?」
女はバカにするような声で
ヲタに言った。
ヲタは目の前にある女の顔に
血の混じった唾を飛ばした。
女は顔に唾が掛かると
「テメエ・・・」
と唸り殴り付け
更にヲタの傷を増やした。
ヲタの息が更に上がると女は
ヲタのジャージで顔を拭き
ポケットを探り始めた。
ジャージのポケットから
ケータイを取り出した。
女はヲタのケータイの
メモリーを見始めた。
「やめ・・・ろ・・・」
感づいたヲタは掠れた声を出した。
「こいつでいっか。」
女は一人のアドレスに
電話を掛けると
しばらくして再び口を開いた。
「もしもし?ウナギさんですか?」
女がそう口にした瞬間
ヲタの顔が勢いよく上がった。

「ヲタのヤローおせえな・・・」
ラッパッパの部室でバンジーが
苛立ち気味な声で言った。
「どうかしたんですか?」
敦子が後ろから口を出した。
「ヲタのヤローが買い出しから
戻って来ねえんだよ。」
「たまにはホルモン以外も
食ったらどうだ?」
横からみなみが茶々を入れた。
「これが無きゃこの学校にいる気が
しねえんだよ。」
アキチャが言った。
「学校はホルモン食べる所じゃ
無いですよ。」
「細かいことは気にすんなよ。」
その時ウナギのケータイが鳴った。
表示にはヲタの文字が
浮かんでいた。
「もしもし?
何ちんたら買い出ししてんだよ。」
『もしもし?ウナギさんですか?』
電話の声はヲタではなかった。
「誰だ?」
ウナギがそう言った時
他のメンバーが
電話に耳を近付けた。
『そのヲタって人
今コッチで預かってるんですよ。』
「テメエら矢場久根か・・・」
『さあ? とりあえず
こっちの場所は教えますから。
急いだほうが
いいかもしれないすよ?』
そう聞こえた時電話の奥のほうから
ヲタの声が聞こえてきた。
『お前ら来るな!』
『うるせえな!
今喋ってんだろうが!』
次の瞬間には
そんな声と鈍い音が聞こえ
一カ所の住所を言って
電話は切れた。
「ヲタが拉致られた・・・」
ホルモン達はすぐに立ち上がった。
しかし扉には
部長の敦子と副部長のみなみが
立ちはだかっていた。
「何してんですか?」
焦りを隠せない声で
ウナギが言った。
「どこ行くんだ?」
みなみが口を開いた。
「お二人には関係ないです・・・」
ウナギは
二人をどけて行こうとした。

女はケータイを閉じた。
「さて皆さんは
どれくらいで来ますかね?」
ヲタにそう聞いた。
「アイツらは関係ねえだろ!」
ヲタは額から血が流れて来ていたが
構わず叫んだ。
「関係ない?
アンタに喧嘩ふっかけたわけじゃ
ないし。
アンタらツブしたいだけだし。」
「なんだと・・・」
「小さいことからコツコツと。
なんてね。」
女はまた笑った。
「それじゃあ彼女達来るまで
何して遊ぼっか?」
女は周りの矢場久根達に言った。
いつの間にか降ろされ矢場久根達に
袋だたきにされていた。
今のヲタには
自力で立ち上がる力すら
残っていなかった。不意に
ヲタの目の前に鉄パイプが現れた。
ヲタは小刻みに首を横に振った。
そんなヲタを見た矢場久根連中は
大爆笑していた。
女が鉄パイプを振り上げた時
倉庫の扉が開いた。
中にいた全員が目を向けると
敦子とみなみが立っていた。
振り上げられた鉄パイプは
女の背中の後ろに
音を立てて落ちた。
「なんで
部長と副部長がいんだよ・・・」
敦子とみなみを見た瞬間半分以上が
後ろにある扉から
逃げようと走っていた。しかし
「あれあれぇ?まさか逃げるとか
そんなつまらない真似
しないよねぇ?」
その扉の前には歌舞伎シスターズと
学ランが立っていた。
「マジかよ・・・」
リーダーの女がそう言った時
「マジだよ。」
と言って敦子が眼鏡を外して
放り投げていた。
「ウチらに手だしたら
どうなるか分かって
やったんだろうな?」
敦子は低い声で言った。
「え?・・・あ・・・いや・・・」
矢場久根達の言い訳は
何を言っても無駄だった。
矢場久根達を
ラッパッパ全員掛かりで
殲滅した直後
ホルモン達はヲタに掛け寄った。
「ヲタ!おいヲタ!!」
ウナギが抱き起こして名前を呼ぶと
ヲタはかすかに意識を取り戻した。
「・・あ・・・・う・・・」
と掠れた声で呻き意識を失った。
「早く病院に!」
いつの間にか眼鏡を掛け直した
敦子が叫んだ。
アキチャが救急車を呼ぼうとすると
ウナギがヲタを背負って
走り出していた。敦子は
バイト先の病院に連絡を入れると
みなみと一緒に学校へ戻った。

−−
「ヘタレ!」
目の前にいたウナギが唐突に
そう口にした。それを皮切りに
他のメンバーも口々に吐き捨た。
「弱いくせに。」
「なんでお前なんかが
リーダーやってんの?」
「チームホルモンが汚れる。」
「この学園から出てってくんない?」
誰が何を言ったか
分からなくなっていた。
目の端に捉えた
学ランと歌舞伎シスターズに
行った。
「触んないでくんない?
ヘタレが移るから。」
「やっぱりアンタには
ラッパッパは荷が重いか。」
「弱いヤツ見ると虫酸が走んだよ。」
連続で言われて泣きそうになると
奥にいたみなみと敦子に
駆け寄った。しかし
みなみが敦子の前に立ち塞がった。
「お前は敦子に近付く資格はない。」
みなみがそう言うと
目の前に敦子が立った。その眼には
哀れみみたいなものを感じた。
「ラッパッパのお荷物。
いやマジジョのお荷物か。
あ世間のお荷物が一番合うか。」
「やめて・・・」
ヲタはたまらず
耳を塞いでしゃがみ込んだ。
それでもヲタの耳には
「ヘタレ。」
「お荷物。」
という言葉が延々と聞こえていた。
「やめて・・・お願いだから
それ以上はもう言わないで!」
−−

目を開けると見知らぬ白い天井が
目に入ってきた。
まだ体中に痛みがあった。
矢場久根にボコられている途中で
敦子達が入ってきた所までは
覚えていた。
辺りを見回すとそこは病室だった。
窓の外は真っ暗だった。
混乱した頭を
整理しようとしていると
「目が覚めた?」
という声とともに
敦子が入ってきた。
敦子はヲタに近付くと
「二、三日は入院だそうです。」
と告げた。
「敦子・・・ここは?」
「見て分からない?病院。」
敦子は
ヲタが横になっているベッドの
傍らの椅子に座った。
「すぐに助け呼べばよかったのに。」
敦子にそう言われると
ヲタはさっきの夢を思い出し
泣き出した。
「どうしたの!?ヲタ!」
「自分が情けない・・・」
「はあ?」
「私がもっと強かったら
ヘタレじゃなかったら
あんなことには・・・」
ヲタの涙は 枕に落ちていった。
「いいんじゃない。
みんな久々に体動かせてよかった
って言ってたし。
とりあえずゆっくり休みなよ。」
そう言って
敦子が椅子から立ち上がった時
ヲタが急に
「敦子さん・・・」
と呼び止めた。
「何?急に改まって?」
ヲタは 言おうと思ったが
声が出なかった。
するとヲタより先に敦子が
「退部なら認めないよ。」
と言った。言おうとしていたことを
先に言われたヲタは
驚いた顔をした。
立ち去ろうとする敦子にヲタは
痛む体を押して
敦子にすがりついた。
「だから何?」
「お願いします。
私は部のお荷物なんです。」
「誰がそんな事言ったの?」
「誰って・・・
みんなが思ってることです。」
ヲタがそう言うと
敦子が小さく溜息を吐いた。
「そういうネガティブな所が
アンタのダメなとこ。」
「え?」
敦子はヲタの足の向こうを指した。
「お荷物だって思ってたら
みんなここにいると思う?」
敦子が指したほうを見ると
そこにはホルモンだけでなく
学ランや歌舞伎シスターズ
みなみまで勢揃いして
雑魚寝していた。
「ここに運ばれてから
アンタが起きないから
みんな心配して
ここに泊まり込んだんだからね。
許可取るの
どんだけ大変だったか。」
「私みたいなヘタレがいたら
迷惑が掛かります・・・」
「この世に迷惑掛けない人間
いると思う?」
ヲタは黙った。
「どうしても辞めたいなら
条件付けるよ。」
「え?」
ヲタが敦子の顔を見ると
敦子は笑っていた。
「私を倒したら
退部認めてもいいわよ。」
「それは・・・」
「前にホルモン全員が言ってたわよ。
ヲタが抜けたらチームホルモンは
即解散だって。」
ヲタの目に涙が溜まり始めた。
「一つ言っとくとアンタが辞めるのが
今のラッパッパにとって
一番迷惑だからね。」
敦子はそう言って
ヲタをベッドに寝かせた。
「余計なこと考えないで
ゆっくり休みな。それから
アンタにさん付けで呼ばれると
なんか気持ち悪い。」
「敦子さん・・・」
「次さん付けで呼んだら
一週間ホルモン抜きだからね。」
敦子は耳元でそう囁いた。
「じゃヲタも起きたようだし
私は帰るよ。」
敦子はそう言って
ドアのほうへ歩いて行った。
「敦子。」
ドアを開けようとした時
またヲタが呼び止めた。
「まだ何かあんの?」
「・・・ありがとう。」
ヲタは震えた声でそれだけ言った。
「相変わらず変な奴。」
敦子は笑ってそう言いながら
病室から出て行った。
ヲタは病室にいる全員の
寝顔を見てから目を閉じた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ