マジすか

□その他
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先に膝を着いたのは敦子だった。

優子の強さは段違いだった。
敦子が 最初に殴り掛かってから
間断なく殴り込んでいた。
ラッシュ最後の一発を
右頬に決めたが優子は
口許から血が流れてはいたが
倒れていなかった。優子は顔を上げ
一度満面の笑みで敦子を見ると
次の瞬間敦子の腹に一発
拳打を叩き込んだ。敦子は
拳のあまりの重さに膝を付いた。
敦子が顔を上げると優子は
変わらない笑顔を見せていた。
「どうした?立てよ。」
敦子はふらつきながら立ち上がり
もう一度左手を振り上げた。
優子は避けずに
右頬に敦子の拳が打ち込まれた。
「おもしれえ。」
優子はそう言うとよろけた体を戻し
敦子に回し蹴りを見舞った。敦子は
後ろのドラム缶に倒れ込んだ。
ドラム缶が
派手な音を立てて転がった。
痛みで体中に力が入らなかった。
自分の敗けだと思った時
みなみやホルモン達
学ランや歌舞伎シスターズが
名前を呼ぶ声がした。
敦子は近くのドラム缶を支えにして
ゆっくり立ち上がった。
その姿を見た優子は
笑いながら口を開いた。
「そろそろマジになるか?」
「私は・・・いつでもマジだよ!」
敦子はそう叫ぶと
優子に向かっていった。
優子の直前でジャンプすると
頭上から優子を殴った。
よろけた優子に続けざまに
脇腹へ掌底を打ち込んだ。優子は
この闘いで初めて咳き込んだ。
次に迫ってきた
優子の拳を紙一重で躱すと
首筋に手刀を叩き込んだ。
今度は優子が膝を付いた。
「やっぱお前強えなあ。」
敦子は再び優子に突っ込んだ。
優子はしゃがみ込んで足を伸ばし
敦子の足を払った。
足を払われた敦子は倒れながら
優子の顔に蹴りを入れた。
敦子が倒れた直後に優子も倒れた。
優子は体を仰向けにした。
「次の一発で最後にしねえか?」
「こっちこそ一発で終わらせてやる。
アンタ倒さなきゃ
みなみ達に笑われんだよ。」
二人共ふらつきながら立ち上がり
睨み合った。一度深呼吸した後
敦子は構え優子は髪をかきあげた。
「「ウラアアァァッ!」」
二人は同時に
叫びながらぶつかった。
それぞれの拳は それぞれの相手の 頬に直撃した。 二人共 拳を振り抜いて 同時に倒れた。

シブヤにトリゴヤにホルモン達
学ランと歌舞伎シスターズ
ブラックとゲキカラにチョウコク
そしてサドとみなみが屋上に出た。
チョウコクはヲタに
ゲキカラはブラックに
みなみは学ランと大歌舞伎に
サドはシブヤとトリゴヤに
それぞれ肩を借りていた。

全員が屋上へ出た時
敦子と優子は倒れていて
静かだった。
「優子さん!」
「敦子!」
ホルモン達や四天王が
駆け寄ろうとした時
「「お前ら行くな!!」」
とサドとみなみに
同時に怒鳴られた。
同時に声が出た時サドとみなみは
一度顔を見合わせ
それぞれクスリと笑った後
真剣な表情で
倒れた二人を見ていた。
先に立ち上がったのは敦子だった。
立ち上がった敦子は泣きそうな声で
思い切り叫んでいた。
みなみ達を見つけると
ふらつきながら
そちらへ歩み寄った。
みなみは学ランと大歌舞伎から離れ
自らの足で敦子を迎えに行った。
みなみの目の前まで来た時
敦子は膝の力が抜けた。
倒れる前にみなみが受け止めた。
他の前田軍団も
敦子に駆け寄っていた。
サドと四天王も
優子に駆け寄っていた。
サド達が近付くと優子は
自力で上半身を起こした。
サドはシブヤとトリゴヤから離れ
優子の傍らにしゃがんだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ。」
「どうでした?」
「アイツらならマジジョ任せても
大丈夫だろ。お前らはどうだ?」
優子の言葉に
異を唱える者はいなかった。
一度敦子達に目をやった優子は
少し笑いながら
「ちょっと定員オーバーだけどな。」
と呟いた。その直後に校門の方が
騒がしくなってきたのに気付き
優子は立ち上がった。

「結構楽勝だったんじゃないか?」
学ランが唐突にそう言った。
敦子は首を振った。
「全然・・・
優子さんの強さはダテじゃない。」
「嘘つけ。顔の傷なんて
口許の痣だけじゃん。」
「嘘じゃな・・・」
敦子は闘いの時を思い出した。
体には何発も受けたが優子は
最後の一発以外一度も敦子の顔に
攻撃を仕掛けていなかった。
敦子は優子がいた所を振り返った。
しかしそこには優子はいなかった。
「敦子!」
不意に優子が敦子を呼んだ。
敦子は優子の横に行った。
「優子さん・・・あの・・・」
「あれ見てみろ。」
敦子の言葉を遮り優子は
校庭を顎でしゃくった。
優子に言われた通り校庭を見ると
そこには
矢場久根の集団が群がっていた。
その数は
いつもの三倍はゆうに越えていた。
総長が前に出て来た。
「大島優子ー!卒業祝いじゃー!」
「懲りねえ連中だ。」
優子はフェンスに背を預けて
そう言った。
敦子は優子のほうを見た。
「優子さんどうしますか?」
「何でアタシに聞くんだよ。」
「え?」 「もうラッパッパの部長は
お前だ。お前が決めろ。」
優子は敦子を見た。
「アタシはそれに従う。」
優子の眼はマジだった。敦子は
一度目を閉じ大きく息を吐いてから
また目を開き
いつの間にか後ろに並んでいた
旧ラッパッパと新ラッパッパ
そして優子を見渡した。
そして敦子は一言だけ叫んだ。
「行くぞ!」
「オオオーーッ!!」
全員下へ降りて行った。
「優子さん。」
敦子は優子を呼び止めた。
「なんでこんなやり方を・・・」
敦子は顔をほとんど殴らなかった
理由を聞こうとした。
「ラッパッパの部長の顔が
傷だらけなんてカッコ悪いだろ。」
優子はそれだけ言って
走って校庭へ向かった。
その姿はさっきまで
殴り合っていたとは思えないぐらい
元気だった。
敦子もそれに続いて校庭へ降りた。
敦子が下へ降りる頃には
他のラッパッパ達が
正面玄関の前で並んでいた。敦子は
真ん中を通って一番前に出た。
「あれー?
部長は大島じゃなかったか?」
矢場久根の総長は挑発的に言った。
「もう卒業したんでな。
新しい部長はコイツだよ。」
優子は敦子を指差した。
敦子は総長と目を合わせた。
「いつでも相手になるぜ矢場久根!」
敦子のその言葉を合図に
最後の闘いが始まった。

傷を負っていたが
おそらく今のラッパッパは
誰にも止めることは
出来ないだろう。
矢場久根の一人が
倒れながらそう思った。

今のマジジョの校庭は
戦場と化していた。
次々と誰かが倒れて行った。
しかし倒れるのは
矢場久根連中だった。
新旧四天王はそれぞれ
存分に暴れ回っていた。
チームホルモンもランダムに
二人組と三人組に分かれ
見事な連携プレーを見せていた。
サドとみなみも
互いに背を預けていた。
「みなみ大丈夫か!?」
サドがそう言って
みなみを振り返った時
みなみはサドの背後で
鉄パイプを振りかざしていた女を
蹴り飛ばした。
「余計なことすんなよ!」
「今やられそうだったろ?」
「あんなの避けられたし!」
口論を始めた二人を
矢場久根のチハルとサナエが
狙っていた。二人は同時に
サドとみなみに突っ込んだ。
サドとみなみは
構わず口論していた。
「アタシに背中預けたんだろ!」
「それとこれとは話が別だろうが!」
「別じゃねえだろ!」
「別だよ!」
「分かったよ!
こうすりゃいいんだろ!」
そう言うと
みなみは目の前まで来ていた
チハルにパンチを
サドはサナエにハイキックを
決めた。
サドはみなみに視線を戻した。
「分かってるじゃねえか。」
「うるせえ。」
サドが嫌味を言うと二人は
それぞれの部長の元へ駆け込んだ。
敦子の背後に
矢場久根の一人が迫っていた。
敦子が振り返って
殴り飛ばそうとした瞬間
「ザコは寝てろ!」
と言う声とともに
みなみが蹴り飛ばしていた。
「みなみ!」
「敦子大丈夫か!?」
「余裕だよ。」
「二人でこうして闘うの
何年ぶりだ?」
「中学校以来かな。」

優子は羽交い締めにされていた。
目の前のゴリラみたいな女が
突進してきた。
サドが優子とゴリラの間に入ると
ゴリラに頬を殴られた。
「サド!」
優子のそんな声は気にせず
サドはゴリラを睨んだ。
「イテエなこの野郎。」
サドはゴリラの腹を蹴飛ばした。
それから足元にあった
角材を拾い上げ右手に持つと
その角材で二発程殴った。
「暴れるんなら
動物園にでも行ってろ!
このクソゴリラ!」
サドはそう吐き捨てて
ゴリラを一発蹴り飛ばした。
優子のほうを振り返ると
優子も 羽交い締めにしていた女を
殴り飛ばしていた。
「大丈夫かよサド。」
優子はわらいながら聞いた。
「大丈夫っすよ。ただもうちょっと
いじめがいのあるヤツが
欲しいですけどね。」
「相変わらずサドだな。」

気が付けば矢場久根は総長以外
全員 地面に顔を付けていた。
総長の先に敦子と優子が並んだ。
「どうする矢場久根さん。
降参します?」
優子が聞いた。
「一人で倒れた人数分暴れますか?」
敦子も口を開いた。
総長はヤケクソになり
雄叫びを挙げながら
二人に突っ込んでいった。
優子と敦子は一度目を合わせると
クスリと笑い合った。
「先に行く?」
「いやいや。優子さんからどうぞ。」
「じゃ、二人で行くか?」
「そうしますか。」
優子は右手を
敦子は左手を握り締めた。
「「せーの!」」
二人は同時に
握り締めた拳を前に突き出した。
二人の拳はどちらも
総長の顔面にめりこんでいた。
二人は拳を下ろした。
「もう終わりかー。」
優子は 体を伸ばした。敦子は
総長の顔の前にしゃがみ込んだ。
「大丈夫ですかぁ?」
敦子は尋ねたが
総長は気を失っていた。
いつの間にか夕方になっていた。
「んじゃ。そろそろ帰るか!」
優子は旧ラッパッパメンバーに
言った。優子とサドを中心に六人は
並んで校門へと歩きだそうとした時
「あの!」
という敦子の大声で
六人は振り向いた。
優子の前には敦子
サドの前にはみなみ
シブヤの前には大歌舞伎
トリゴヤの前には小歌舞伎
ブラックの前には学ラン
ゲキカラの前にはチョウコクが
並んでいた。
「いや・・・チョウコクさん
あなたはあっち側でしょ。」
ヲタに突っ込まれ
チョウコクは慌てて
旧ラッパッパの横に並んだ。
代わりにゲキカラの前にはヲタが
並んだ。チームホルモンの四人は
後ろにいた。敦子が少し息を吸うと
腹の底から声を出した。
「御卒業おめでとうございます!!」
敦子が礼をすると
全員揃って礼をした。優子の目には
うっすら涙が浮かんでいた。
「バカヤロ・・・こういう時は
黙って見送るもんだろ。」
優子は声も少し震えていた。
他のメンバーやチョウコクも
泣きそうだった。
「じゃあな。」
優子がそう言うと
旧ラッパッパとチョウコクの
三年生七人は踵を返し
改めて歩き始めた。
三年生達は歩きながら
『桜の栞』を歌い始めた。
新ラッパッパ達も
後ろ姿が見えなくなるまで
歌い続けていた。
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