マジすか

□その他
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『マジすかアーリータイムズ』


みなみが死んでから
何日が経ったか分からなかったが
敦子は絶望感と虚無感に
苛まれていた。
『自分なんか死んでもいい。』
そんな思いが絶えず頭の中にあり、
ただボーッと街中を歩く日々が
続いていた。気が付けば
線路の上の陸橋に立っていた。
向こうから電車が走ってくるのが
見えた。
敦子は体が自然と陸橋のフェンスを
乗り越えようとしていた。
「何やってんだ!」
不意にそんな叫び声がして
何かが腰にしがみついた。
敦子はそのまま
フェンスから引きはがされた。
「離せ!」
「バカな真似すんな!」
敦子は背中を
フェンスにたたき付けられた。
スケバン姿の小柄な女=優子が
敦子を止めていた。
飛び降りようともがく敦子の頬を
優子はひっぱたいた。
「誰だよお前!」
敦子は見知らぬ女である優子に
怒鳴り付けていた。
「誰でもいい!
早まったマネすんな!」
優子がそう叫んだ時
陸橋の下を電車が過ぎていった。
電車が過ぎると敦子は
少し落ち着きを取り戻した。

近くの階段を昇った所にある
公園のベンチに二人は座った。
「なんで死のうと思った?」
優子が聞いた。
「私が生きてたら
周りが不幸になる・・・」
「は?」
「私のせいでみなみは死んだ・・・」
それから敦子は詳細を話した。
「つまりそのみなみって奴はお前の
身代わりになって死んだと・・・」
優子は要約した。
敦子は黙って頷いた。
「でもよ。だからって
死ぬことはないだろ?その・・・
みなみって奴もお前のために
そうなったわけなんだから。」
「でも私が生きてたら周りが・・・」
「周りが何なんだよ。」
「こんな人間
生きてたらダメなんだ。」
「本気でそんな事思ってんのか?」
「他人のアンタに何がわかんだよ!」
敦子は思わず叫んでいた。
「そうかよ・・・」
優子は低い声で呟くと
敦子の手を掴んだ。
「そんなに死にたいかよ。」
優子は敦子を立たせると
階段のほうへ連れていった。
「そんなに死にたいなら
今すぐアタシが殺してやるよ。」
敦子を引っ張る手は
優子の小さい体からは
想像できないくらい強かった。
「離せよ!何言ってんだよ!
何なんだよオメエはよ!」
敦子のそんな叫び声には耳を貸さず
階段の前まで行き
敦子を突き落とそうとした。
敦子は精一杯抵抗した。
「やめろよ!」
「死にてえんだろ!」
「フザケンな!」
「手伝ってやるって言ってんだ!」
「イヤだ・・・死にたくない!」
敦子がそう叫んだ時優子は
敦子の体を階段とは逆のほうへ
放り投げた。
敦子は砂地に倒れ込んだ。
「やっと本音が出たか。」
敦子は倒れたまま黙っていた。
優子は敦子の前にしゃがみ込んだ。
「今、怖かっただろ?
そういうことだよ。
人間は皆死にたくねえんだよ。
死ぬのが怖えんだよ!
そのみなみって奴も
そう思ってただろうよ。
怖い、死にたくないって。
でもそんなに怖くても
お前のことを守ろうとしたんだろ?
死ぬかもしれないと思っても
お前の命守ろうとしたんだろ?
お前が勝手に死んだら
みなみさんの思い
踏みにじるってことじゃねえか?
お前が今死んだら
みなみさん喜ぶか?お前は
みなみさんの分まで生きなきゃ
いけないんじゃないのか?」
敦子は優子のことを見た。
それから敦子はゆっくり立ち上がり
優子に頭を下げた。
「すいませんでした。」
そんな敦子を見た優子は
頭の上で手を横に振った。
「アタシじゃなくて
みなみさんに謝っとけ。」
優子はそう言うと
立ち上がって帰ろうとした。
「あの・・・」
帰ろうとした優子の背中に
敦子が声を掛けた。
優子は振り返った。
「アナタのお名前・・・
何て言うんです・・・か?」
そう聞かれた優子は辺りを見回すと
ゴミ箱を見て少し鼻で笑うと
「大島優子だ。」
そう言ってどこかへ去っていった。
敦子は心の中でみなみに謝ると
自身も帰ろうとした。その時
さっき優子が見たゴミ箱に
目が行った。ゴミ箱には
スポーツ新聞が捨てられていて
そこから見えた記事には
[AKB48大島優子 ドラマ初主演]
と書いてあったその記事を見て
咄嗟に言った名前だと思った敦子は
少しだけ笑いその公園を後にした。





『束の間の出来事』


「サドさん・・・どこにいる?」
ウナギが顔に傷を付けて
遅刻してきたかと思えば
いきなりこんなことを口にした。
「なんだよいきなり・・・」
ヲタが答えた。
ウナギは少し話すのをためらった。
「ここに来る時
矢場久根の連中に捕まって・・・
ムクチが人質にとられた。」
「マジかよ!?」
ヲタは声を張り上げた。
「それでムクチと交換で
サドさんを連れて来いって・・・」
「なんだよそれ・・・」
バンジーが呟いた。
「どうすんだよ、ヲタ。」
そう言ったのはアキチャだった。
「どうするって
行くしかないだろ・・・」
「サドさんの所にか?」
「バカ!
サドさんに迷惑掛けられるかよ!」
「じゃあアタシ達だけで?」
「四人いりゃ
なんとかなるだろ・・・」
そう言ったヲタが
一番ビビッているように見えた。
四人は揃って立ち上がると
廊下を駆け出した。
玄関から外へ出た時後ろから
「おい。」
という声が聞こえた。
振り返るとサドが玄関の横の壁に
寄り掛かっていた。
「サドさん・・・」
アキチャがそう呟いた瞬間
アキチャが鳩尾を殴られ
気を失った。
それからあっという間に
サドは全員を気絶させた。
「悪いな。リクエストは私なんだ。」
最後に殴られたヲタが気を失う寸前
そんな声が聞こえた。

ヲタが目を覚ますと四人が
さっきまで
サドが寄り掛かっていた壁に
並んで眠っていた。
太陽は高い所まで昇っていた。
「おい!起きろ!」
ヲタは他の四人を起こした。
「早くムクチ助けねえと。」
四人が慌てて立ち上がり
また駆け出した。
しかしすぐに校門を出た所で
立ち止まった。向こうの方から
灰色の人影が近付いてきた。
「サドさん?」
そう呟いたのはウナギだった。
近付いてくると
たしかにサドだと分かった。
胸の前で
ムクチをお姫様抱っこしていた。
四人は全く動けずにいた。サドは
四人の目の前で立ち止まった。
「探し物はコイツか?」
サドはそう言って
四人にムクチを渡した。ムクチは
顔に痣が出来て気を失っていた。
サドも口元に若干痣が出来ていた。
サドは四人にムクチを渡すと
校舎へと戻っていった。
「ありがとうございます!」
ヲタは出来る限りの大声で
礼を言って頭を下げた。サドは
何も聞こえなかったかのように
何事も無かったかのように
校舎の中へと入っていった。
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