マジすか

□その他
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『脱ヘタレ』


これから昼食の時間という時に
血まみれでボロ雑巾のようになった
ウナギが
よろめきながら入ってきた。
そんなウナギに気付いた私と
アキチャとムクチは
急いで駆け寄るとウナギは
一番最初に辿り着いたアキチャに
倒れ込んだ。
「どうしたウナギ。誰にやられた?!
ゲキカラか!?」
アキチャは
倒れ込んだウナギに聞いた。
ウナギは首をゆっくり横に振った。
「じゃあ誰が?」
アキチャがそう聞いた時
ムクチがウナギのジャージに何かが
引っ掛かっているのに気付いた。
ムクチがそれを手に取るのを
見つけた私は
それを引ったくるように
手に取っていた。それは
矢場久根とは別の高校の
学生証だった。
「・・・バンジーが・・・
さらわれた・・・」
ウナギは荒い息でそう呟いた。
それを聞いた瞬間私は
教室を飛び出していた。アキチャの
「おいヲタ!」
という声も袖を掠めたムクチの手も
気にかける余裕は無かった。

気付けば
その高校のグループの一つが
集まっていると聞いたことがある
倉庫に単身で乗り込んでいた。
ドアを開けると薄い暗闇に
寝そべっている人影が見えた。
よく見ると
その影はバンジーだった。
「バンジー!」
そう叫びながら駆け寄った。
バンジーは 両手足を縛られて
痣と血の化粧を施されていた。
抱き起こした時
背後に数人の足音が聞こえた。
ゆっくりと振り向くとその高校の
五人のヤンキー集団が
鉄パイプを持って
ドアを塞ぐように立っていた。
「アンタソイツのダチかなんかか?」
女の一人が言ってきた。
『だったら?』
「ソイツ。ウチの高校の一人を
ボコッちまってよ。
ちょっとお返ししてたんだよ。
だからさ。ソイツの事
置いてってくんねえか?そしたら
アンタには手を出さねえよ。」
「・・・一人相手に五人でやるかよ?
フツー。」
バンジーがその集団に言い放った。
「んだとコラ!二度と無駄口
叩けねえようにしてやるよ。」
五人が各々
鉄パイプを振り下ろした。
そいつらは私を見ると
「どけ。」
と言ってきた。私は一度
強く瞼を閉じるとゆっくりと
瞼を開いて立ち上がった。そして
バンジーを背に
そいつらに立ちはだかった。
「なんだテメー?」
集団の一人が言った。
「テメーもやられてえのか?」
違う一人がこう言うと
後ろからバンジーが
「コレはアタシのケンカだ。
手出すな。」
という声が聞こえた。
なぜこうしたのかは
自分でもよく分からない。
普段はヘタレとして
そこそこ名も知られていた。
ケンカでもよく逃げていた。
しかし今は逃げようなんて
思っていなかった。
心臓は今までにないぐらい
激しい鼓動を打ち鳴らしていた。
『バンジー。もうちょっとだけ
我慢しててくれ。』
私はそう言うと
力の限り叫びながら
その集団に向かっていった。

殴って殴られ、殴って殴られて、
鉄パイプで背中を叩かれた後
その鉄パイプを奪い取った。
そこまでは覚えていた。
気が付けば周りには
五人全員が倒れていた。
私自身もかなり脚が震えていて
立っているのがやっとだった。
体中が痛みで悲鳴を挙げていた。
私は振り向くとよろめきながら
バンジーのほうに歩いて行き
倒れるように傍らに座ると
手足の縄をほどいた。
「バカヤロウ。
手出すなって言っただろ。」
ほどいた瞬間
バンジーからお叱りを受けた。
『ケンカだったら手は出さないさ。
仲間がリンチされてたら
助けるのが フツーだろ。』
私は残ったわずかな力で
笑って見せた。

バンジーの方が
まだ体力が残っていたらしく帰りは
私がバンジーに
肩を借りる事になった。
倉庫を出た時アキチャとムクチが
走って来るのが見えた。
『もうヘタレじゃねえな。』
私はそう言うと
走って来る二人を見ながら
気を失った。

次に目を覚ました時は
白い天井が見えた。それから
他の四人の顔が見えてきた。
起きぬけでまだ頭は
ボーッとしていた。
「やっと目覚ましたな。」
そう言ったのは顔中絆創膏だらけの
バンジーだった。
「何本か骨がヤラレてて
しばらくは入院だって。」
今度はアキチャが口を開いた。
「まさかヲタがこんなになるまで
ケンカするとはな。」
ウナギも喋った。
ムクチは相変わらず無口だった。
「とりあえずウチらは帰っから。
ゆっくり休んどけよ。」
アキチャがそう言うと四人は
ぞろぞろと病室から出て行った。
三人が出た後バンジーが少し遅れて
ドアを開け外へ出ようとした。
その時
「お前はヘタレでいい。」
体半分が病室から出た状態で
バンジーがそう呟いた。
『え?』
「私がずっと守ってやっから。」
バンジーはもう一言そう呟くと
さっさと出て行った。
私は少し痛みが和らいだような
感覚になった。
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