BAD GIRL BLUES

□SERIES 3
7ページ/16ページ

ヲタが居なくなってから
一週間が経った。
取り逃がした越智の捜査中
サドのケータイが鳴った。
サドは相手の表示を見ずに
電話に出た。
「もしもし?」
『サドさん・・・』
サドは声の主にすぐに気付いた。
「ヲタか?」
『優子さんの事・・・
本当にすいません。』
電話の声は引く暗かった。
『謝っても足りないのは
わかってます・・・でも・・・』
「何が言いたい?」
『越智の事・・・
私に任せてもらいたいんです。』
「は?」
『それが・・・
それが私が優子さんに出来る
せめてもの償いです。』
そう言って電話は切れた。
「ヲタ・・・
指原は何だったんです?」
敦子が近付いてきてサドに尋ねた。
「知らね・・・」
サドはケータイをしまうと
席を立った。
「どこ行くんですか?」
「優子さんのお見舞いだ。」

病室へ入ると
優子が笑顔で出迎えた。
「あ、麻里子さん!」
「どうも・・・」
「私。明日退院出来るそうです。」
「そうですか。」
サドは出来るだけの笑顔で答えた。
「まだお腹の傷が
開くかもしれないから
絶対安静が条件ですけど。
・・・今日は何の用ですか?」
「忘れ物を届けに・・・」
サドはそう言って 封筒を渡した。
「わざわざ ありがとうございます。」 「それじゃあ私は
まだ仕事がありますので。」
「ご苦労様です。」
優子が頭を下げると
サドは踵を返した。
「麻里子さん・・・」
「はい?」
「どうして見ず知らずの私にこんなに
優しくしてくれるんですか?」
振り向きざまにこう言われたサドは
一度小さく唾を飲み込んでから
再び笑顔を浮かべた。
「・・・ただの老婆心です。」
サドは足早に病室から出て
涙を拭きながら病院を後にした。
サドから渡された封筒を開けると
一本の万年筆が入っていた。側面に
彫られていた『Y.TAKAMI』の
文字を見た瞬間優子は頭を抱えて
よろけた。そのまま万年筆を
握り締めのたうちまわり始めた。
「高見さん・・・」
優子はそう呟いた後
悲鳴のような雄叫びを挙げた。

「サドは?」
チョウコクが敦子に聞いた。
「鑑識行ってます・・・」
「ヲ・・・莉乃は?」
「あいつの話はしないで下さい!
あんなバカもう知りません!!」
敦子がそう叫んだ時入口の方から
「誰のことバカっつった?」
という声が聞こえた。
その場にいた全員が振り返ると
優子が立っていた。
「優子さん!?」
「サドは?」
「鑑識に・・・」
「ヲタは?」
優子のその問いに全員が黙った。
「ヲタは!?」
「アイツがどうしたんですか?」
チョウコクが口を開いた。
「どこだって聞いてんだよ!」
「・・・なんであんな奴のこと
気にかけるんですか?」
「・・・あんな奴って何だ?」
優子はチョウコクに詰め寄ると
その頬を殴り付けた。
「仲間をバカにする奴は
誰だろうが許さねえ!!」
優子そう言うと全員を見回した。
「何なんだよお前ら!なんでそんなに
ヲタのこと目の敵にしてんだよ!?」
「アイツは優子さんのこと・・・」
「お前らだって失敗の一つや二つ
あるだろ!?なのになんでヲタの
一回の失敗くらい許して
やれねえんだよ!?仲間だろ!!」
全員黙ったままなのを見た優子は
「・・・そうか・・・」
と呟いた。
「お前らの中の仲間なんて
そんなもんなんだな・・・
そうだよな・・・・・・
仲間仲間って叫んでる私が
バカみたいなんだな・・・」
優子はそう言うと自分のデスクの
二番目の引き出しから一通の封筒を
取り出しチョウコクに渡した。
「明日にでも
署長に出しといてくれ。」
封筒には『辞表』と書かれていた。
「優子さん?」
「優子でいいよ。」
優子はそう言いながら
P230をデスクの上に置くと
警察バッジを出した。
「『仲間守ってやれなかった』
そうなったら
それ出すつもりだった・・・
でももういい。仲間なんか
最初から居なかったんだからな。
・・・課長なんか辞めてやるよ。
刑事なんて辞めてやる!!」
優子はそう言って
バッジを床に叩き付けた。
「ムダな年月ありがとな。」
優子はそう言って
刑事課から出て行った。
優子が消えてからしばらくして
サドが戻って来た。
「どうしたお前ら?」
そう聞いても何も返さない
面々を見ながら歩いていくと
床に捨てられた警察バッジと
優子のデスクの上のP230が
目に入った。
「優子さんの記憶・・・
戻ったのか?」
「・・・」
「質問に答えろ!」
「・・・おそらく・・・」
「それで?」
「ヲタについて聞かれて
何も答えられなかったら
コレ渡して出て行った。」
チョウコクは優子の辞表を渡した。
「・・・見損なったよ。」
サドはそう呟くと立ち上がり
チョウコクの腹を殴った。
前屈みになった
チョウコクの髪を掴み
自分のデスクに叩き付けると
腕に力を込めた。
「テメエら・・・私も・・・
自分のしたこと分かってんのか?」
サドはチョウコクを放り投げると
ブラックとゲキカラの前に立った。
「お前らヲタに言ったよな?
アイツは優子さんの
全てを奪ったって。」
「はい・・・アイツは優子さんの
記憶を奪ったんで・・・」
「私達も一緒だ!!」
サドは敦子を見た。
「お前もヲタに何か言ったな?」
敦子が返答する前に
サドは敦子の頬を掴んだ。
「どの口でそんな事言った?」
サドは敦子から離れると
優子のバッジを拾った。
「ヲタばっか責めたけどよ・・・
私達だって優子さんから大事なもの
奪ってんじゃねえか。」
全員サドの顔を見た。
「優子さんが一番大事にしてる
仲間を奪ったんだ・・・
私達は優子さんを裏切ったんだ。
・・・私達だってあの時のヲタと
同じ事してるじゃねえか!!」
サドはそう言って
自分のコートとP230を手にした。
「優子さんに
奪ったもの返しに行くぞ。」
サドが出て行こうとしても
他は動かなかった。
「いつまで 突っ立ってんだよ!?
今やらなきゃ優子さんとヲタは
これから一生一人なんだぞ!?」

越智を見つけたヲタが
尾行を続けると越智は
廃倉庫へと入って行った。
入口の前でFNを抜いたヲタが
中へ入ろうとした瞬間背中に
強い衝撃を受けFNを手放した。
振り向くと男が鉄パイプを持って
立っていた。
「尾行がヘタなんだよ。」
越智がそう言いながらFNを拾うと
ヲタの腕を撃った。
ヲタは悲鳴を挙げた。
「・・・アンタのせいで・・・」
「知るかよ。お前が勝手に
殺そうとしたんだろ。」
その言葉を聞いたヲタは
獣のような叫び声を挙げながら
越智を押し倒した。
「私は何を言われてもいい。
でも・・・ アンタのせいで
私の仲間達はバラバラになった!」
ヲタは越智からFNを奪い返した。
「だから二人で責任取りましょう。」
そう言って
越智の額に銃口を向けた。
怯えた顔になった越智を見て
ヲタは笑った。
「心配しないで。私も同罪だから
すぐに追い掛けるから。」
そう言って引金に指を掛けた時
「ヲタ止めろ!!」
と優子が叫んで走り込み
ヲタを突き飛ばした。
「お前はコイツらとは違う!!」
優子はそう怒鳴ってから越智と
鉄パイプを持った男を睨んだ。
「私の仲間に何してくれてんだよ。」
そう唸ると男から鉄パイプを奪い
二人を殴り付けた。倒れた二人を
一瞥すると改めてヲタを見た。
「ヲタ・・・」
ヲタは後ずさりし始めた。
「優子さん・・・
すいませんでした・・・」
「何を謝ってる?」
ヲタは立ち止まり
優子に向かって土下座していた。
「私が・・・ 私のせいで・・・
許して下さい・・・」
「ヲタ・・・」
名前を呼ばれて顔を上げると
目の前にしゃがんでいた優子が
ヲタを抱きすくめていた。
「ゴメンな・・・
あの時もっと早く
見つけられてりゃ・・・
心配掛けさせちまって
本当に悪かった・・・」
優子がそう言うとヲタの呼吸が
激しく荒くなった。
「違・・・ 優・・・さ・・・
悪くな・・・」
ヲタは過呼吸でとぎれとぎれの
言葉を吐きながら気を失った。
「ヲタ?おいヲタ!?
しっかりしろ・・・」
優子は後頭部を殴られた。
振り返ると鉄パイプを持った越智が
二人を睨んでいた。優子は
目を閉じているヲタを庇った。
「お前らのせいで・・・
俺の人生メチャクチャだ・・・」
越智が鉄パイプを振り上げると
優子は目を閉じた。
次の瞬間一発の銃声が響いた。
優子が目を開けると越智が倒れた。
奥にはベレッタを構えているサドの姿が
見えた。サドがベレッタをしまうと
他の面々も姿を現した。
「お前ら・・・」
サド達が近付いてくると
優子は地面に膝を着いた。
その姿に立ち止まった
サド達を見据えながら
優子は地面に手を付き頭を下げた。
「優子さん!?」
「頼む!!もうヲタの事
許してやってくれ・・・」
サド達は優子の後ろで
気を失っているヲタを見た。
「こいつも・・・
ヲタもこんなになるまで
苦しんでたんだ・・・
だからもう充分だろ?
それでも気が済まない
って言うんなら・・・
私も一緒に罰を受ける・・・」
「優子さん・・・」
その声に優子は顔を上げるとサドは
「忘れ物です。」
と言って辞表とバッジとP230を
優子に返しチョウコク達を見た。
「何してんだ!?
早くヲタを病院に運んでやれ!」
そう言われたチョウコク達が
ヲタを運んで行くと
サドは優子を見て笑った。
「アイツらならもう大丈夫です。」
「サド・・・」
優子はサドに抱き着いた。
「ありがとう・・・」
「仲間じゃないですか。」
サドはそう言うと
優子に肩を貸し病院へ向かった。

ヲタが目を覚ますと病院のベッドに
点滴を打たれつつ横になっていた。
横を見ると頭に包帯を巻いた優子が
座っていた。
「優子さ・・・」
「起きたか。」
優子は優しい声でそう言った。
「もう少しゆっくり寝てな。」
「優子さん・・・あの・・・
本当にすいま・・・」
ヲタの口を
優子の人差し指が塞いだ。
「その気持ちがありゃ充分だよ。」
優子がそう言った後
ヲタは泣き出した。
「やっぱり私は・・・」
「お前はお前の良さがある。
無理なんかしなくていい。」
優子は笑顔でそう告げ
「くだんねえ考えは
眠って忘れちまえ。」
そう言って
ヲタの病室から出て行った。
まもなくしてヲタは眠りに入った。
病室から出て来た優子に
サドは真っ二つに破いた
優子の辞表を渡していた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ