BAD GIRL BLUES

□SERIES 3
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『孤立』


「ヲタは今日も来てねえのか?」
空いているのヲタの席を見て
優子がサドに向かって呟いた。
「昨日もでしたね。」
「珍しいな・・・」
「休むのがですか?」
「いや・・・連絡も無いんだよ。
ケータイ掛けても繋がらねえし
折り返しても来ねえ。」
優子がそう言うと
敦子が近付いて来た。
「優子さん・・・」
「何だ?」
「昨日ヲタの家に行ったんですけど
居なかったんですよ。
鍵も掛かってなかった。」
「居なかった?」
「ケータイも財布も
置きっぱなしでした。」
「・・・さすがに
おかしすぎるな・・・」
優子はそう言うと立ち上がった。
「少し調べてみる必要があるな。」

ヲタが目を覚ました時
どこかの薄暗い部屋に
横になっていた。家に帰ってから
宅配便が来て玄関を開けた所までは
覚えていた。それからヲタは
その部屋から出られずにその一日
黙って隅に座っている事しか出来ず
一夜が明けた。

優子はサドとブラックを
ネズミの下に向かわせ
敦子と共に歌舞伎達の下を訪ねた。
「優子さんどしたの?」
珍しく起きていた智美が出迎えた。
「一昨日ぐらいからお前らの同業者で
変な動きしてる奴ら知らねえか?」
「変な動き?」
「何でもいい。
どっかに集まってるとか
何人かいなくなってるとか。」
「入ってないよ。」
「そうか・・・」
優子はそう言うと出て行った。
「なんか入ったら連絡はするから。」
歌舞伎達の事務所を出ると
サドに電話した。
「そっちはどうだ?」
『情報は無いですね。』
「そうか・・・一回署に戻るぞ。」
『わかりました。』

署に戻った優子に
チョウコクとゲキカラが
資料を持って来た。
「ヲタが以前逮捕した
宇治木ファイナンスの役員の一人の
越智正治が先週保釈されてます。」
「保釈・・・」
「それから越智の行方は不明です。」
「ヲタの失踪に絡んでても
おかしくねえな。チョウコク・・・
その事務所だった所
今はどうなってる?」
「まだ店舗が入ってないみたいで
廃墟同然です。」
「ヲタがいると思うか?」
「可能性は無くもないです。」
「じゃあ行くぞ!」
優子達は
事務所があったビルへ向かった。

夜が明けて
ヲタが監禁されている部屋に
越智が入って来た。
ヲタは姿を見て目を見開いた。
「あなたは・・・」
「あの時はどうも。」
越智はヲタの前に
サンドイッチと水の入った
コンビニ袋を置くと近くに座った。
「昨日から何も食べてないでしょ?
毒とかは入ってないからどうぞ。」
「・・・どういうつもりですか?」
「何が?」
「復讐ならさっさと殺したら?」
「別に復讐とか
そんなつもりないですよ。
恨んでるわけじゃ無いですから。
ただちょっと
あなたとお話たかっただけです。」
「・・・話?」
「あなたは不運な人だと
思いましてね。」
「・・・何の事?」
「あなたの課長さんの策士ぶりに。
引っ掛かった私もそうですけど
謀略の駒・・・つまり
良いように利用されたあなたが
可哀相だなと思って・・・」
「何言ってんの?
優子さんがそんな事・・・」
「先週私が保釈された事
知ってました?」
ヲタは黙った。
「やっぱり・・・俺を泳がせれば
あなたを襲撃すること
知ってたんだ。」
「・・・だから?」
「あなたはあの課長にとって
物に過ぎないんですよ。」
「・・・嘘だ。」
「公務員のリストラは難しいから。
かと言ってクビにすると
退職金払わなきゃいけない。
だったら使うだけ使えばいい。」
「嘘だ・・・」
「殉職したら
あなたが二階級特進するだけで
あの人には何も・・・」
「嘘だ!」
「じゃああなたは何で今
ここにいるんです?」
ヲタは黙った。
「助けに来ないのが
何よりの証拠じゃないですか?」
「それは・・・」
「あの人にとっては
またとないチャンスです。
死んでから見つけて
『全力は尽くした。』そう言えば
済むだけなんですから。」
「嘘だ・・・」
「そう思いたくもなりますけどね。
見つけた時にまだあなたが生きてて
その時に『馬鹿』って言葉が出たら
それはあなたを
追い詰めるためですよ。」
そう言われたヲタが
頭を抱えたのを見ながら
越智は部屋から出て行った。

それからしばらくして
優子達が部屋に入って来た。
「ヲタ大丈夫か!?」
「優子・・・さん?」
「バカが・・・」
「馬鹿・・・」
優子はヲタの前にFNを置いた。
「コレ忘れっから拉致られんだよ。」
優子はそう言って笑った。
「帰るぞ。」
優子が踵を返した直後
銃声が轟いた。
銃声の直後優子は
脇腹の辺りに痛みと熱を感じた。
顔を下に向けると脇腹から
血が溢れ出していた。
振り返るとヲタがFNを構えていた。
「・・・ええ?」
ヲタは優子にタックルして
突き飛ばすとそのまま上に跨がり
顔を殴り始めた。
「ヲタ!!」
サドが慌ててヲタを引き離した。
「クビにしたけりゃしろよ!!
殺し待ちとか汚えマネすんなよ!!」
サドに羽交い締めにされながら
ヲタは叫んだ。
「私は駒じゃない人間だ!!」
「いい加減にしろ!!」
サドがヲタを投げ飛ばすと
他の面々は気を失った優子を
連れて行った。
「どういうつもりだ?」
サドはヲタを睨んだ。
「・・・アンタには
わからねえだろ!」
ヲタはサドを睨み返し叫んだ。
「アンタみたいに
なんでも出来る完璧な人間達には
私みたいな者の気持ちなんか
わかんないって言ってんだよ!!」
「・・・何言ってんだ?」
「ずっと思ってたんですよ。
何をやってもダメな私が
なんでいつまでも
あの中にいるのか。」
ヲタは鼻で笑った。
「・・・そうですよね。
私みたいなのは駒になって
利用するだけ利用して
使わなくなったら
捨てればいいんですよね。
・・・でもね・・・でも私だって
人間なんですよ!?使い捨てなんて
そんなのひど過ぎるじゃ・・・」
ヲタの言葉を待たずに
サドがヲタの頬を叩いた。
「お前は優子さんの
何を見てきたんだ!!」
サドはヲタの胸倉を掴み
近くの壁に追い込んだ。
「優子さんは私達を
駒だなんて思ってねえんだよ!!」
「・・・嘘つくな!」
「嘘じゃねえ!お前こそ
くだんねえ事考えやがって・・・
あの越智って奴に何吹き込まれたか
わかんねえけどな何でそっち信じて
優子さんのことを
信じらんねえんだよ!?
駒だと思ってんなら
他の事件ほっといてお前の事
助けになんか来ねえだろ!!」
「え・・・?」
「優子さんはもう
仲間を失いたくないんだよ・・・」
いつしかサドの眼には
涙が浮かんでいた。
「お前知ってんのか?
優子さんの机の引き出しに
いつも辞表が入ってる事。」
「辞・・・表・・・?」
「課長になってから
ずっと入ってんだ。
誰か死なせたら優子さんは
刑事辞める覚悟してんだよ!
そんな人間がお前を駒だとか
思うわけねえだろ!!」
サドはそう言うとヲタを離した。
「優子さん死んだらテメエのこと
ブッ殺すからな。」
サドはヲタを連れ病院へ向かった。

幸い弾は急所を外れていて優子は
処置が終わると病室へ移った。
「優子さんが目を覚ましたぞ!」
チョウコクのその声に
ロビーにいたサド達は
すぐに優子の病室に入った。
サド達が中へ入ると
優子は体を起こしていた。
サド達を見た優子は笑いながら
口を開いた。
「はじめまして。」
優子の一言に全員が凍り付いた。
「皆さん私のお知り合いですか?」
「優子さん・・・嘘でしょ・・・」
「ゆうこさん?私・・・
ゆうこって言うんですか?」
その言葉を聞いた敦子は
口を押さえて出て行った。
「・・・どうしたんですか?
今の人。」
「・・・何でも・・・
無いです・・・」
サドは拳を握り締めながら
笑って見せた。
一度サドを残して
全員が病室から出た。
「記憶喪失ですか・・・?」
ヲタがブラックを追いながら
尋ねた。
「他にどう見えるの?」
「頭打ってないですよね?」
「・・・おそらく
精神的なショックでしょうね。」
「精神的な・・・ショック?」
ヲタがそう言うと
ブラックは振り返った。
「信頼してた仲間に裏切られて
ショック受けない人間がいるの?」
「私のせい・・・ですか?」
「そうに決まってるでしょ!!」
ブラックはヲタを睨んでいた。
「アンタに撃たれて殴られて
挙句にわけのわかんない
暴言吐かれて・・・」
「すいませんでした・・・」
「アンタが謝ったら
優子さんの記憶は戻って来る?」
「それは・・・」
「私はアンタを許さない!!」
ヲタは俯いていた顔を上げた。
「アンタは・・・アンタは
優子さんから全てを奪った。
そんな人間を
私は絶対に許さない!!」
ブラックはヲタの耳元に
顔を近付けて囁いた。
「二度と私の前に
その汚い顔見せるな。」
ブラックはそう言うと足早に
去って行った。辺りを見回すと
ゲキカラが立っていた。
「ゲキカラさん・・・」
「私はブラックと同意見だよ。」
ゲキカラの背後には
チョウコクがいた。
「お前自分が何やったか
分かってんのか?」
二人がそう言って立ち去ると
トイレから敦子が出て来た。
「敦子さん・・・」
「触んないで!!」
敦子はヲタの手を払った。
「見損なった。」
敦子もそう言って去って行った。
「イヤ・・・イヤだ・・・
イヤアーッ!!」
ヲタは悲鳴を挙げて泣き崩れた。

優子の病室のドアがノックされた。
「ちょっとすいません・・・」
サドがドアを開けると
ヲタが立っていた。
それを見たサドは
病室から出てドアを閉めた。
「何の用だ・・・」
「ちょっと優子さんに・・・」
ヲタがそう言うとサドはヲタの首に
右手を伸ばし絞め上げた。
「優子さんに近付くな。」
「謝らせて・・・下さい・・・」
「今謝っても意味ねえんだよ・・・」
サドはヲタから手を離した。
「お前は最低だ。」
サドはそう言うと病室に戻った。
ヲタは顔を俯け
病院から出て行った。

次の日ヲタは
刑事課に姿を見せなかった。
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