BAD GIRL BLUES

□SERIES 3
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『Long,Long Way』


昼食が終わった頃
優子のケータイが鳴った。
「もしもし・・・あ。
どうもご無沙汰してます。
・・・はい・・・はいもちろん。
・・・え!?・・・
本当ですか・・・?・・・
はい・・・はい解りました・・・
失礼します。」
優子は電話を切ると肩を落とした。
「誰からだったんです?」
優子を見てサドが聞いてきた。
「高見さんの奥さんからだ・・・」
「奥さん?」
「高見さん・・・亡くなった・・・」
「え!?」
優子から出た言葉にサドだけでなく
チョウコクとブラックも
目を丸くしていた。
「癌が再発して
先週まで入院してたそうだ。」
「先週・・・まで?」
「悪いサド・・・
私今日はもう上がるわ。
これから着替えて
高見さんの家行って来る。
今日が通夜だそうだ。」
「解りました・・・
私も夜に行きますから。」
「わかった。」
優子は頷いて
コートを羽織って鞄を手にした。
「出世もしないで定年して
すぐ死ぬなんてなんか
つまんない人生だったんですね。」
敦子が呟いたその一言が
優子の耳朶を打った。
「敦子・・・」
優子は敦子の前に立った。
「取り消せ。」
「・・・はい?」
優子は顔を上げた敦子の胸倉を掴み
横の壁に叩き付けた。
「今の言葉を取り消せ!!」
優子の息は荒かった。
「お前が高見さんの
何を知ってんだ・・・
何も知らないお前が
高見さんを語るんじゃねえ!!」
激昂している優子を見て
サドが口を開いた。
「・・・優子さん
早く行ったほうが・・・」
「・・・ああ。」
優子は敦子から手を離して
刑事課から出て行った。
敦子の体はそのまま壁に沿って
ゆっくり崩れ落ちた。
「敦子・・・今のはお前が悪いぞ。」
チョウコクがそう言うと
ブラックも口を開いた。
「敦子は高見さんの
刑事時代知らないからねえ。」
「なんかすいません・・・」
敦子はそう言って
ゆっくり立ち上がった。
「私・・・ 高見さんは
優しい総務課長という認識しか
なくて・・・」
「なんかって何だ?」
サドが立ち上がり
敦子の前に立った。
「敦子・・・
お前何で怒られたか解るか?」
そう言われた敦子は黙った。
「意味も分からず謝るのは
無駄に疲れるだけだぞ。」
「すいません・・・」
「高見さんは優子さんが唯一尊敬する
・・・ 憧れてる刑事だ。」

サドがチョウコクとブラックと
高見の家へ着く頃には
通夜は一通り終わっていた。
「ごめん下さい。」
サドが引き戸の玄関を開けると
高見の妻の薫が出迎えた。
「あら!
麻里子ちゃんに才加ちゃんに
由紀ちゃん。元気してた?」
そう言った薫の顔には
幾分か疲労が見えた。
「この度はご愁傷様でした。」
サドの声で二人も頭を下げた。
「優子ちゃんも来てるから
上がって。」
薫に香典を渡し線香をあげた三人は
優子と一緒に軽く酒をもらった。
「あの人ねあなた達の四人を
『俺の人生で最高の刑事達だ。』
って私にずっと自慢してたのよ。
もう聞き飽きるくらい・・・」
一緒の席に着いた薫が話し始めると
優子は謙遜した。
「いやそんな・・・
私なんて高見さんの足元にも・・・」「優子ちゃんは
元気があり過ぎて時々鬱陶しいけど
どんな時でも仲間を思いやれるし
強い覚悟があるから将来絶対
課長になれるって。
麻里子ちゃんは
妹溺愛度が尋常じゃないけど
その分優子ちゃんのサポートと
射撃が人一倍上手い。
才加ちゃんは
一匹狼気質が若干あって
気難しくて近付き難い感じだけど
真面目で自己犠牲が強いし
腕っ節では敵わない。
由紀ちゃんは子供がいるからか
母性が強くて人より多く
愛を持ってる。でもそれを自分で
コントロール出来てないから
それが心配。」
「全部見抜いてたんだ・・・」
サドがそう呟いた。
「でもあなた達全員に
共通する所があるんだって。」
四人は薫を見た。
「全員絶対に
軸がブレない所だって。」
「ブレない・・・か・・・」
優子がそう呟いた。
「優子ちゃんは俺の自慢の一番弟子だ
って昔はよく言ってたのよ。
あなたが課長になったって聞いて
喜んでたし。
部下にあの三人がいるなら
盤石だって酔っ払う度に言ってた。」
薫はそう言うとコップの中の
日本酒を一気に飲んだ。
「・・・なんかまだ
実感湧かないのよね。
今でも玄関からただいまって言って
帰って来そうで・・・」
薫がそう言うと
四人は静かに立ち上がった。
「もう夜も遅いので
私達はこの辺で・・・」
「あ、ちょっと待ってて!」
薫は慌ててそう言うと
どこかへ姿を消し戻って来ると
優子に万年筆を渡した。
「あの人の遺品。受け取って。」
「いや受け取れないですよ!」
優子は慌てて万年筆を返した。
「受け取って。
あの人の遺言だから。」
「え?」
「死んだら優子に渡してくれって。
それと・・・すまなかったって。」
「わかり・・・ました・・・
ではありがたく。」
優子は改めて万年筆を受け取り
他の三人と一緒に家を出た。

「ちょっと・・・ 飲み直そうぜ。」
優子はしばらく歩いた後
そう言った。
優子達は居酒屋でなく
静かなバーへと入った。
「優子さん・・・」
一口飲んでサドが口を開いた。
「何だ?」
「気になることが
二つあるんですけど・・・」
「気になる事?」
「一つ目は電話の直後に言ってた
先週まで入院してたって話です。
先週からなら分かりますけど
先週までって・・・」
「ああそれな・・・私も気になって
薫さんに聞いたんだ。」
「・・・それで?」
「高見さんな・・・
延命治療断ったそうなんだ。」
「断った?」
「ああ・・・ それで残りの時間を
家族と過ごしたいって言って
退院したらしい。」
「それで先週までだったんですね。」
優子は頷いた。
「高見さん
死ぬ間際に笑ってたらしい。
薫さんの手握って
『ありがとう』って・・・」
優子は言葉に詰まると
グラスの中のカクテルを
一気に飲み干した。
「もう一つは?」
「・・・万年筆貰った時の
すまなかったって言葉です。」
「ああそれか・・・私・・・
前に高見さんと約束してたんだ。」
「約束?」
「高見さんが使ってるの見て
カッコイイって思っててな
刑事辞める時に高見さんと
時間が出来たら買ってやる
って約束したんだ・・・
多分その約束守れなかった
って事だと思う。」
「そうですか・・・」
サドがそう返すと
チョウコクとブラックは
カクテルのおかわりを貰いに行く
と言って席を外した。
「サド・・・」
「はい?」
「私も高見さんみたいな
刑事になれるかな?」
「・・・なれますよ。
優子さんなら・・・」
「ありがとよ・・・」
優子はそう言って涙を浮かべながら
笑って見せた。
「葬儀終わるまで休む。」
サドにそう告げてから
四人は解散した。

優子が自宅に戻ると
玄関の前に敦子がいた。
「敦子どうした?」
敦子より先に気付いた優子が
声を掛けると敦子は直立した。
「あの・・・その・・・」
「ん?」
「昼間はすいませんでした!」
敦子は頭を下げた。
「優子さんの気持ちも考えずに
あんなこと言って・・・
私にも前の署にいた頃
憧れてた先輩がいました・・・
それを考えたら・・・あの・・・」
「分かりゃいいよ。」
優子はそう言って
玄関の鍵を開けた。
「上がってけよ。」
「いえ・・・今日はヲタと飲む約束
してましたから・・・」
「そうか・・・気をつけて帰れよ。」
「・・・はい。」
敦子はそう言って敬礼をしてから
帰って行った。
リビングの電気を付けた優子は
通夜の前に薫から渡された封筒を
懐から出した。封筒には高見の字で
『大島優子刑事課長へ』
と書いてあった。
優子は中の手紙を開けた。
『優子。立派な刑事になったな。
いつの間にか階級も刑事としても
俺の事抜いちまって。
佳代ちゃんの事もあったけど
よく頑張ったな!

最後に 先輩からの命令。
・刑事やってる間はこっち来るな。
・仲間は絶対に裏切るな。
この二つは必ず守れ。
後はお前らしく元気にやり遂げな。

P.S
万年筆買う約束守れなくて
悪かったな。
俺のお古で我慢してくれ。』
手紙を読んだ優子は
今まで我慢していた涙が
一気に溢れ出していた。
「ずるいですよ高見さん・・・」
優子はポケットに入れていた
万年筆を取り出し握り締めた。
「万年筆が欲しかったんじゃ
無いのに・・・
一人前の刑事になったらって
約束じゃないですか・・・
一人前になるまで待ってるって
言ったじゃないですか・・・」
優子はそう呟きながら座ると
テーブルに突っ伏して泣いていた。

葬儀が終わった翌日
優子は笑顔を浮かべ
刑事課に入って来た。
「もういいんですか?」
サドは優子の明るい姿に
そう聞いた。
「いつまでもしょげてたら
高見さんに叱られちまうよ。」
「そうですか・・・」
サドは笑顔でそう返すと
みなみがやって来た。
「優子さん。領収書落ちましたんで
持って来ました。」
「おお、ありがとう。」
みなみは封筒と書類を渡した。
「サインお願いします。」
「あいよ。」
優子は懐に手を入れ
ペンを出そうとした。
ボールペンを出した時
机に万年筆が落ちた。
「あ・・・」
優子の声に
みなみが万年筆を拾おうとした時
「触んな!!」
と優子が怒鳴り
すぐに万年筆を拾い懐にしまった。
「あ・・・悪い。気にすんな。」
優子はそう言って
ボールペンでサインをして
みなみに返した。
みなみが帰った後
「使わないんですか?万年筆。」
とサドが聞いてきた。
「まだ私には早えよ。」
優子はそれだけ言った。
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