連載駄文

□神経衰弱〜舞い込んだカード〜
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君に再び逢えた奇跡を



この手にーーー…




【神経衰弱 〜舞い込んだカード〜】





「ザラさん、この後お暇ですか?」

 つい先程まで商談相手だった女からの誘いに、アスランは思案した。仕事も終わり、これといった予定は無い。けれど、この誘いが‘‘どういったもの’’なのかーーアスランはそれを知っている。

「予定はありませんが…、俺は彼女がいますよ?」

 敢えてその台詞を口にする。それはアスランの処世術でもあった。後から、面倒な事になるのは御免なのだ。
 一年ほど前までは、彼女がいようといまいとお構いなしのアスランだったが、現在の彼女ミーアと付き合い出してからは極力そういった事は避けていた。アスランにとって、ミーアという存在は特別だった。大学に入ってから偶然再会し、だらしない生活を送る自分をいつも甲斐甲斐しく支えてくれた。
 今まで惰性で付き合ってきた女たちとは違う存在。出来るだけ大切にしなくてはいけない。けれど、そう思うのはミーアの愛情に応えたいという純粋な気持ちだけではなかった。
 アスランにとって何よりも、誰よりも大切な人の親友。それがミーアなのだ。
 だからミーアに思いを告げられた時、アスランははっきりと断った。けれども最終的にミーアの熱意に打たれ、付き合うまでにいたっあが、それもまた間違いだったと反省する自分が今ここにいる。
 ミーアと付き合ったことをきっかけに、誠実であろうと決心した。しかし、ミーアと付き合ったことで、余計に心の中は荒れた。ミーアを通して、どうしても「彼女」が蘇るのだ。
 もう戻ることの出来ない時間を強く思い出しては、無惨な現実を知る。
 アスランはミーアを抱くことさえ出来なくなっていた。その捌け口を、擦り寄ってくる女で解消する。ミーアを傷つけたくないからと偽善ぶって。後腐れの無い遊びの女を選ぶ。
 最低だとわかってはいても、心に開いた穴の埋め方を知らないアスランは、今夜もまた挑発的な女に、挑発的な瞳を被せ、いつもの台詞を口にしたのであった。


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