連載駄文
□神経衰弱 (後編)
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あの頃に戻れるのなら…
何度そう願っただろうかーー
そして、それすら諦めかけた頃
君に再び逢えた
【神経衰弱 後編】
真夏の生ぬるい夜風が肌にまとわりつくようで、その不快さにアスランは眉間に皺を寄せた。
いや、不快なのはそのせいだけではない。
彼女をーー、
カガリを抱いた身体は甘い疼きを覚えるどころか、果て無い乾きを生み出し、ひび割れて。
カガリが腕に残した爪痕と共にズキズキとアスランを苛んだ。
これでよかったのだろうか…
今更ながらそんな事を思う。
カガリの泣き顔ばかりが頭の中に浮かんで…
そんな顔をさせたのは他ならぬ自分だというのに、悔しくて切なくてーーー苦しい。
胸のつっかえが少しでも取れないものかと、アスランは深く息を吐いてみるが、当然の如く何一つ変わらない。
そんな苦し紛れの方法しか思い浮かばない自分を嘲笑しながら、家路を辿っていた。
もう、終わったことだ。
幻想のようなものだったのだ。
カガリも別れ際に言っていた。
もう二度と会わないーーと。
その重い言葉を思い出し反射的にきつく唇を噛んだ。
微かな血の味は一瞬といえど、この苦しい心を忘れさせてくれた。
麻薬のようなそれをアスランはもう一舐めしてからゆっくりと足を止め、自宅のあるマンションを仰ぎ見た。
高層マンションとまではいかないが、そこは外観からも高級なものであると誰もが認識できる立派な建物だ。
深夜にも関わらず、エントランスは煌々とした灯りをともしている。
それは毎晩の事ではあるのだが、今日はいやに眩しく感じられてアスランはそこが自宅だというのに、二の足を踏んでしまった。
しかし、いつまでもそうしているわけにもいかず、軽く一息ついてからまたゆっくりと歩みを進め入口をくぐると、
二十四時間駐在しているコンシェルジュが出迎えの言葉と共に客人の知らせを伝えてくれた。
「おかえりなさいませ。いつものお客様がお見えでしたので、ロビーにご案内しております」
「あぁ、ありがとう」
軽く会釈をしてエントランスロビーへと向かうアスラン。
こんな時間に誰か、という質問など愚問である。
思い描いた人物がソファでうたた寝をしていた事に少し呆れながら、美しく磨かれた床に革靴の音を響かせてアスランはその者へ近づいた。