連載駄文

□神経衰弱
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『なぁ、アスラン!トランプしよう!』



ーー私のトランプは数が合わない。



『いいけど、二人でやってもつまんないよ』



幼い頃にいつの間にか失くしてしまったカード



『つまんなくない!!そうだ!"しんけんすいじゃく"しよう!』


ぴたりと揃わない残りのカード達



『"しんけいすいじゃく"ね。いいけど、カガリまたまけるよ?』



いつまでも上がれないゲーム



『きょうのわたしはまけないんだ!かくごしろ!』


それでも思い出の詰まったそれは捨てられなくて、
ずっと、ここにあるーーー




【神経衰弱】



どうしてこんな事になってしまったのだろう。



見知らぬベッド。
キングサイズってやつかな?広過ぎて居心地が悪い。


見知らぬ壁。
小窓が一つついている閉鎖的な部屋。勿論、窓を開ける気になんてなれない。


大きな液晶テレビ。
テレビを見るのは大好きだけど、つける気はない。
噂で聞いた事があるから。


薄暗い間接照明。
ぼんやりした頭を余計に鈍くさせている気がする。


小さな冷蔵庫。
有料の飲料が数本置かれている。


見た事のない小さな自動販売機。
わけの分からない代物が並んでいる。





雨音に似た、人工的な水音が浴室から響いて離れない。


「どうしてこんな事に…」


一人小さく呟いた女は、広いベッドの片隅で所在なげに座っていた。名はカガリ。カガリ・ユラ・アスハ。
長い睫毛が綺麗な琥珀色の瞳に影を落とし、華奢な指先は微かに震えている。





一体どこで間違えたのだろう。




わからない。



わからない。



だって私はカードを失くしてしまった。
いつまでたってもペアになれない余ったカードは、私そのものなのだ。
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