頂き物

□22歳の僕、29歳の彼女
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今日も朝から晩まで卒業研究のため研究室に篭りっぱなし。体はもうクタクタ。とりあえずお風呂に入ってゆっくりしたい。でもお腹も減った。ただ、家に何か食べ物あったっけ?どうしよう、今から何かつくるとか、はたまたどこかへ買いに行くとか果てしなく面倒だ。などと考えながら、歩き慣れた夜道を歩く。

そうこうしているうちに、我が家に到着。カンカンと階段を登り、二階にある自分の部屋へ。

「今日も疲れたー」

仕事終わりのサラリーマンみたいなことを言いながら、玄関で靴を脱ぐ。そのとき、明らかな違和感に気付く。

下宿を初めて四年目。僕が住むのは主に学生が住む二階建てのワンルームアパート。即ち、僕は今、一人暮らしだ。朝、確かに電気は消して家を出た。それなのに、今帰宅して、僕が電気をつける前に部屋に明かりが灯っているのは何故?そのことに底知れぬ恐怖を覚え、恐る恐る部屋の中を見渡す。

「久しぶり」

部屋の中から突然、声がしたことに体が異常なくならいビクッと震える。そしてその声の主を確認し、この状況のあり得なさに驚愕する。

「フレイ•••?」

そこにいたのは、3年前に別れた元彼女だった。

「えっと、何、この状況。何で君がここにいるの?てか、鍵も無いのにどうやって入ったの?というか僕に用?何か忘れ物でもこの部屋にあった?君のものは一つ残らず3年前に送り返したから何もないよ」

棘のある言い方で、矢継ぎ早に声を発する。彼女はきまずそうに顔を俯く。

彼女とは中学、高校と同級生だった。学校のアイドルだった彼女と付き合い始めたのは15歳のとき。告白は僕から。華やかで可愛い彼女がずっと好きだった。付き合えたときは夢かと思った。一緒に過ごす時間が増えるに連れ、もっと好きになった。本当に彼女が大好きだった。でも3年前、突然別れを告げられた。

『私と一緒にいてくれない人とは付き合えない。さよなら』

そんなことを突然告げられた。確かに大学が別々になって、確かに一緒にいられる時間は減った。だからこそ二人でいれる時間がどれほど貴重なものなのか実感できた。だからこそ、その時間を大切にしようとより一層思えた。だからこそ、大好きな彼女を誰よりも大切にしていた。それなのに告げられた別れ。別れはたった一通のメールだった。どうにか話がしたくて、何度も電話もメールもした。だけど、すでに電話番号もアドレスも変えていた彼女に連絡が通じることはなかった。それでも諦められず、家にも大学にも会いに行った。だけど、会ってさえもらえなかった。絶望した。僕の何がいけなかったのか、考えれば考えるほど訳がわからなくなった。考えついた答えは裏切られたという答えだった。そして湧いてきたのはどうしようもない怒り。復讐してやろうとさえ思った。でもそんなバカなことをするくらいなら、あんな女綺麗さっぱり忘れてやろうと思い、記憶の中から抹消した。だけど、いざ、彼女を前にすると冷静でいることは出来なかった。

「あのさ、君、僕にしたこと覚えてる?話をする機会さえもらえなくて、こっぴどく裏切って。そんな僕の前によく顔を出せたね。何?無神経?ただのバカ?」

出てくる言葉は辛辣なものばかり。傷ついたように下唇を咬む彼女。君に裏切られ、傷ついたのは僕だ。それなのにどうして君がそをな顔をするの?と苛立ちが沸き起こる。しかし、彼女は意を決したようにすっと僕を見据える。

「そうね、あの頃のあたしは本当にバカで無神経だった。あなたがそれほど傷ついたなんて、あの頃のあたしは思ってもなかったの。本当に悪いことをしたと思ってるわ。ごめんなさい」

そう言って深々と頭を下げる彼女を見て、心底驚いた。今、目の前にいる彼女は僕の知っていた彼女ではない。そう感じると僕の胸をチクリを痛みが刺す。同時に違和感を覚えた。

「なんかフレイ•••老けた?」

場の空気が一瞬凍る。その空気を変えたのは彼女の吹き出した声だった。

「あはは、何それ、本当失礼。そりゃそうよ。だって今のあたし、あなたより7つも歳上よ?」

笑いすぎて出た涙を彼女は指で拭う。その動作がすごく色っぽくて思わずドキッとしてしまった。同時に彼女の言葉が理解出来なかった。

「フレイ何言ってるの?僕たち同級生でしょ?それが7つも歳上?フレイ、会わないうちに電波になっちゃったの?」

「あなた電波ってね。だから今のあたしは29歳で、今より7年先の時代の人間なの!それが、どうしてか朝起きたらここにいて、財布も靴もないしここにいさせてもらったの!あ、携帯は何故か持ってきてたの、ほら日付け見て」

と、見せてもらった携帯は見たことも無い機種で、表示されている日付けは確かに今より7年後の今日だった。それに加え、目の前の彼女。三年でここまで大人びるとは到底思えない。ということは彼女の言っていることは本当なのだろうか。でもなんか、どうでもよくなった。

「でも、キラが一人でホッとしたわ。女の子連れてきたらどうしようってビクビクしてたのよ」

と、笑いながら話す彼女をジロリと睨む。

「生憎、君にこっぴどくフラらてから彼女いないから。•••なんかさ、遊びの女の子だったり、飲み会とかで知り合ったりして一回だけの相手だったりはあるんだけどね。だけど彼女とは違うなって。多分、全然忘れられてないんだろうな、フレイのこと」
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