K
□淡雪
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目が覚めると、祈李を迎えたのは見慣れない白い天井だった
『私……』
半覚醒状態の頭で色々思い出しはっとして上体を起こした
(私、昨日……)
事の次第を思い出していると部屋の扉がぶっきらぼうにノックされ、返事をする間もなく扉が開く
『伏見くん』
黒縁めがねをかけた青年、伏見猿比古は祈李を見て少し目を瞠った
「……祈李」
『何ですか?』
「どこも、痛くねぇの?」
祈李は小さく首を傾げた
それから少し体を動かしてまた首をひねる
『どこも痛くないですよ?』
「……………そうか」
どこか様子のおかしい伏見は動揺を隠すように紙袋を祈李に差し出した
「室長がこれに着替えろって」
中身を確認すると流行りのカジュアルな洋服が入っていた
『ねぇ、伏見くん』
「何?」
『これ、礼司さんが選んですか?』
伏見は目をしばし瞬いてからその表情を渋くした
「…………………………考えたくねぇな、女物の服を本気で選ぶ室長」
『でも、考えるとなかなか…………ふふっ』
想像してしまい思わず吹き出すと伏見はさらに眉間のシワを深くする
「くだらないこと考えずにさっさと着替えろ」
『はい』
伏見が部屋の外に出るなり疑惑の洋服に着替えたのだった
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セプター4の屯所の中を歩くのは二度目だった
一度目は王になったばかりの頃青の王であるセプター4室長、宗像礼司が個人的に祈李を呼び出し色々と脅迫……もといお話をしたのだ
あの時「宗像礼司」という人物を理解した祈李は「いい人だけど出来れば関わりたくない」という印象を持ったのだった
『伏見くん』
「何だよ」
先頭を行く伏見に声をかけると嫌そうだか返事が返ってきた
『礼司さんは今回私にとって敵ですか?それとも味方ですか?』
「味方だ、じゃなきゃ手当てして服まで提供しねぇよ」
『そう……ですよね』
「…………何が言いたい」
『あの、そのですね……おそらく父が礼司さんにご迷惑をかけているのではないかと思いまして。敵なら後でとんでもない報復をされるのではないかとヒヤヒヤしなくちゃいけないじゃないですか』
「…………………………………………」
沈黙を肯定と受け取り思わず俯くと伏見が足を止めた
「なんで父親が迷惑かけてるって思った?」
『能力、使ったから……です。野次馬のなかに父を見ましたから』
とにかくあの時は必死だった
頭部に痛みを感じて目を覚ますと視界一面が火の海だった
電撃で行く手を阻む物を壊し、外へ脱出したのだ
おそらくその際にダモクレスの剣が出現していたはずである
そもそも、祈李たち「王」というのは第一王権者アドルフ・K・ヴァイツマンのおかげで今や都市伝説と化している
その王が自分の娘だとすれば世間の話題をさらうことができる
『だから父は私を利用しようとするはずです』
「よくわかってるな」
祈李の父は政治家だ
利用できるものは何でも利用する
「あの親父はおまえを娘を引き取る、すぐにでも連れて帰りたいって室長に喚いてる」
『本当にごめんなさい』
深々と頭を下げて謝ると伏見がため息をついた
「おまえが悪いわけじゃねぇだろ。それよりどうするんだよ、このまま父親のところに行くのか?」
『行くわけないでしょう?』
即答である
家庭崩壊の原因たる父親を 祈李はすでに見限っていた
草薙に救われたあの日より父親に対しての情など捨ててしまったのだから
「じゃ、なんとかしろよ」
戦場たる室長室は目の前だった