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□その名は「恋」
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しかし、 祈李は顔色ひとつ変えず自身の肩を掴む男の手に自身の手を重ねた
すると、ゆっくり男の体が地面めがけて倒れたのだ
第三者から見たら彼女が手を重ねた瞬間に男が意識を失ったように見えただろう
――八田たちは彼女が電気を流しただけだとわかっているが
『おじさんたちの言う通り吠舞羅のみんなは私のオトモダチなんですよ』
にこにこと不敵に笑いながら一歩、一歩と歩み寄る男たちの顔面は蒼白に変化していく
『だからさ、――あんまり苛めないでよ』
「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」」
祈李の迫力に押されて情けなく(律儀にも倒された仲間を連れて)逃げ去る姿はなかなか滑稽だったという
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「つまり、自分らの喧嘩に首突っ込まれた上、片付けられてもうたから拗ねてると」
「そうみたいっす」
「拗ねてねーよ!!…………女に助けられるなんてダセーだろ」
苛々と今度は貧乏揺すりを始めた八田に草薙と鎌本は顔を見合わせた
するとふいにアンナが顔を上げて八田を見つめた
『アンナ、どうしたの?』
紐を指で器用に操りながら 祈李がアンナの顔を覗きこむ
「 祈李 」
アンナが八田を見ながらこれみよがしに 祈李に抱きつく
「私、 祈李のこと……好き 」
ガタッと八田が立ち上がる
『ホント?嬉しい〜!』
キャーと言いながらアンナを抱き締めようとする祈李の腕を八田が掴んでそのまま店の外へ連れ出す
『え、ちょ、ちょっと!カラスさん!?』
出ていった二人を見送ったアンナは先ほどまで八田がいた席に座った
「……ミサキは、意地っ張りだから……」
「なるほどな」
「えっ、どういうことっすか」
混乱する鎌本を無視して草薙は苦笑した
男にとって好きな女に守られるほど屈辱なことはない
そして好きな女が他の奴に触れられることも気にくわない
――つまり、八田ちゃんは 祈李に惚れとるっちゅうわけやな
青春やなー、などと呟きながら草薙は開店準備を再開した
その名は「恋」
(この感情の名前を知るまであと……)