K
□決別
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今作品は「淡雪」の続編となりますのでよろしければそちらもご覧くださいませ
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草薙は言ったことは本当にやる、有言実行の男だ
彼の住むマンションの一室で祈李は表情を引きつらせていた
目の前には「婚姻届」と書かれた書類が一枚、そして黒ボールペンが転がっている
紙面上にはすでに「草薙出雲」の名前が記入されていた
書いた張本人は祈李を背後から抱きくるみ彼女が名前を書く瞬間を今か今かと待っていた
『……あの、草薙さん』
「ん?」
祈李の首元に口づけながら草薙は聞き返す
『私、未成年です。未成年の結婚には親の同意が……』
「せやけど、大丈夫やろ?……おまえには日本を動かせる力を持つ知り合いがおんねんから」
(ちょっと、まさかの他力本願!?)
確かに日本の重鎮たる國常路大覚とは「おじいちゃん」と呼べるほどのお知り合いである
彼の手にかかればこの程度の些事なら朝飯前だろうが
意外だった
草薙のことだから適当に祈李の父親を脅して名前を書かせハンコを押させるのかと思っていたからだ
そう正直に言うと草薙はあからさまに表情を渋くさせ「おまえの中の俺ってどういうキャラやねん」とぼやかれた
当然「謀大好き腹黒策略家」とはいえず「冗談です」と答えたが
一息ついて祈李はボールペンを握り氏名を記入していく
ずいぶん長い時間をかけたような気がしながら書き終えると全身の力が抜けた
すると草薙が祈李をぎゅっと抱きしめた
「これでおまえは俺のモンやな」
見上げると嬉しそうな表情を浮かべる草薙がいた
『嬉しそうですね』
「当然や」
草薙は祈李のこめかみに口づける
心から喜んでいることが分かるからこそ――祈李は後ろ暗かった
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翌朝、早くに起きると草薙が祈李を抱きしめて眠っていた
腕の中から奮闘して抜け出すと草薙が起きそうになったので慌てて電撃で意識を沈める
――バレたら怒られそうだが
淡島に無理を言ってお願いし手に入れた学校の制服を着て準備を整える
眠る草薙に触れるだけのキスをして祈李は瞼を伏せた
『ごめんなさい』
祈李は息をついて玄関に向かう
いつも結っている黒髪は結われていなかった