闇の皇太子

□麗しの貴女へ
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さて、どうしようか

壁に追い込まれた天音は冷静に対応策を考えていた

相手は他事務所の俳優

問題を起こせば自分だけでなく事務所にも迷惑がかかる

(――徳長が社長だからいいけど)

ヤツに損害を被らせようが 天音には知ったことではない

というか、自分が忠誠を誓う后の敵を困らせられるなら万々歳だ

「だからさ、一緒に食事に行こうよ。高級ホテルのレストランなんだ、きっと君も気に入る」

『あの、忙しいので……』

そろそろ寛大な 天音もイラつき始めている

燃やしてやろうかと思っていると背筋がゾッとした

刹那

腕を思い切り引かれ逞しい胸板に押し付けられる

「霧砂!?」

『霧砂さん……』

霧砂は一度 天音を一瞥し言い寄っていた俳優を冷たい笑みで見返した

「ウチのモデルに何か?」

その一言で充分だった

「い、いや」

彼はそのまま怯えた様子で駆けていく

さすが芦屋道満などと思っていた 天音ははっとして霧砂から逃れようと胸板を押し返す

『は、離してください』

「嫌だ」

『えぇ!?』

ぐぐっと抱き寄せようとする腕に抵抗しながら 天音は口を開いた

『わ、私怒ってるんですよ!?仕事に情熱ないなんて、ひどすぎます!……確かに最初は霧砂さんにお誘いされたからですけど』

ごにょごにょと必死に言葉を紡ごうとする姿に霧砂は間抜けにも口をぼかんと開けてしまった

恋をすると人はひどくバカになる、という言葉はライバルにして主の陰陽師によって実証されてはいたがまさか自分までがそうなるとは思っていなかった

無意識に全力で彼女を掻き抱き息をつく

「さっきのは嘘だ」

『え……』

「ただ俺が、水着の撮影をしてほしくないだけだ」

『どうしてですか?』

霧砂の腕の中できょとん、と見つめ返す 天音の頭をおもいっきりつかんでやろうと思った

「自分で考えろ」

さすがに本心は告げられず誤魔化すと 天音は首を傾げている

視線を逸らしながら彼女の髪を弄んでいると先程の不愉快な光景を思い出した

「さっきの男になにかされたか?」

『い、いえ。しつこく迫られただけです。いざとなれば撃退するつもりでしたから大丈夫ですよ』

撃退方法がなんとなく目に浮かぶが霧砂はため息をついた

「頼むから、俺の目の届くところにいてくれ」

天音の頬に手を添えながら霧砂は続ける

「無防備すぎる。もっと俺の女だってこと自覚しろ」

『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜して、ます』

真っ赤になって言う 天音にふっとわらって霧砂は身を屈める

「もっとだ」

顔を赤くする 天音に口づけながら囁くと彼女は無言でうなづいた


麗しの貴方へ
(君は自分の魅力をもっと自覚すべき)
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