俺屍部屋

□冬の夕暮れ
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ガチャン、


夕暮れの玄関先に響いた音。
それに気付いたのは、庭でまだ幼い紗也佳に術を教えていた天海家当主、葎だった。

「……?」

どなたかいらっしゃったのかしら、とあまり深く考えず紗也佳を庭に残して玄関に回った葎は、目の前に広がる光景に息が止まった気がした


赤い夕陽よりなお紅い血が、一族の証たる青と黒の衣装を染め上げる。

葎の足音に気付いた一護が顔を上げた。
浅黒いその肌に散る紅は、誰のものなのか

「は、母上…!あ、兄上、兄上が!!」


  「かーさま、かーさまぁ」

幼い声が聞こえてきた瞬間、葎はぐっと唇を噛み締めた。
次の瞬間、屋敷に葎の声が響く

「イツ花、玄関まで来てください!」

言ったあと、葎は一護が抱えている血まみれの一を受け取った。
すでに母親である葎より大きくなった一に潰されそうな姿を見て、一護が手を伸ばせば

「一護、あなたはすぐに血を拭って着替えてきてください
しばらくの間、紗也佳の世話を頼みますよ」

この場には不似合いなほど普段通りの声に言われた。
ははうえ、と口の中で呟いた言葉は音にならず、イツ花の足音に紛れて消えてしまう。

「一様…!」

イツ花はハッと息を飲んでから、すぐに葎に手を貸して一を家の中へ連れていく。
少しあとに、小さな声が聞こえた。

「いちごにーさま…?」

「!
た…だいま、紗也佳。風呂の準備は出来てるかな」

振り向くことが出来なかった一護の手に、小さな温もり。
紗也佳がぎゅっと両手で一護の手を取った。

「いつかがね、おふろできましたっていってたよ!
さやかがつれてってあげる!」

一と変わらないくらい血まみれの一護の手を臆することなく取った紗也佳は、ぐいぐいと全身で一護を引っ張る。
躓きそうになりながら一護が家に上がれば、ぽたりと深緑の髪から血が滴った。思わずサッと指で拭うが、その紅は伸びるだけだった
紗也佳に手を引かれながら、一護はぼんやりと靄がかかったような頭で、伸びた紅に兄である一の髪を思い浮かべた。

兄上、どうか無事で―――
 
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