創作小説

□THE LIGHT OF THE DARKNESS番外編〜猫探し〜
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認めたくないことだって、きっとある。

「で? 今回は、猫探しゃあいいってわけ?」

依頼についてメモをとった紙を見せると、当たり前のような顔をして私の隣に立つ背の高い女……テズ=カーリストニアが訊いてきた。
私は、どういう訳か、テズ=カーリストニアとコンビを組んで仕事を続けている。
お互い完全にタイプが違うから、補い合うには丁度いいよって、リライアは言ったけど。
はっきり言って、私はテズ=カーリストニアを信用していない。
生まれ育った環境が違い過ぎて、どうしても考え方に差が出てしまう。
それを受け入れた上での対話、協力なんて、なかなか出来るものじゃないと思う。
だいたい、私は元々、人付き合いは得意ではない。
考え方が違うのなら、勝手にすればいいと思うけれど、どうもそれではダメらしい。

「何ぼさっとしてるんだ? こんな仕事、さっさと終わらせて帰るぞ」

何でこの人はいつも命令口調なのだろう、とか、詮無いことを考えてみたりする。
言っても仕方がないから、黙って後をついていく。
こんな仕事、なんて言っていても、この人は絶対に仕事に手抜きはしない。
それだけは分かっているから。

街に出て、トランクを引きながら、私は後ろからついていくだけ。
機動力のあるテズが、聞きこみを重ねていく。
そうして、ついに迷子猫の居場所を突き止めた。
木の上に登ってしまい、降りようとしない。
丁度良く日が当たって気持ち良さそう。

――もしかして、あの場所を気に入ったのかな。

猫自体が高いところが好きなのかどうかっていうことは知らない。
けれど、枝の上に起用に乗っかって、目を細めているのを見ると、なんとなくそうなのかな、と思ってしまう。

「あの猫、あそこから引きずり降ろして、飼い主に引き渡せばいいのか?」

言い方は悪いけれど、似たようなことを感じたのか、テズも猫を見上げながら訊いてくる。

「それが仕事なら」

一言だけ静かに言う。
テズは、ちょっと困ったように頭を掻いた。

「仕事なら、ねぇ……」

何か言いたそう。
何を言いたいのかなんて、聞いてあげないけど。
どうしようか悩んでいるテズを置き去りに、私はトランクに乗っかって猫の高さまで上がる。

「おい!」

私が猫を捕まえて降りようとしてるんだ、なんて思ってるのか、焦って声をかけてくる。
そんなことしないのに。
猫の近くまで来て、じっと見つめる。
猫と話すなんてできないけど、何か分かるかも知れないから。
ずっと見つめる。
すると、猫が木を降りはじめた。

――……これじゃあ、私が猫を脅して木から降ろしたみたいじゃない。

ちょっとむくれながら下に降りると、テズがニヤニヤしながら待っていた。

「お疲れさん、眼力で降ろしたのか?」

降りてきた猫を抱いて、余計な事を言う。
無視して、そのまま歩きだす。
早く飼い主に届けて、帰ろう。

歩いている間中、テズは猫と遊んでいた。
慣れているのか、猫も面倒臭げに、でもちょっと楽しそうにしていた。
届けると、飼い主に感謝されて、報酬を受け取って、そのままカフェに向かう。
分け前の話をしなくちゃ。
って言っても、半分こ、だけれど。

テズの家の近くの、小さなカフェ。
コーヒーとミルクティーを注文する。
いつもだったらすぐにお金の話に入るテズが、何も言わなかった。
コーヒーとミルクティーが来て、一口飲んでからやっと口を開く。

「あれで、あの猫は幸せだと思うか?」

「仕事をするこちらには関係のないこと」

問いには答えずに、言い放つ。
苛々した様子で、テズがもう一口コーヒーを飲んだ。

「そんなことを聞いているんじゃない」

「知っている」

眉をひそめている彼女に、まっすぐ目を向けた。

「そんなことを、今、ここで言っても仕方がない。私たちは仕事としてあの子を連れ戻すよう言われていた。仕事をする以上、それ以外のことは考えてはいけない」

「でも」

「では、あの場所に飼い主を連れて来て、納得させればよかったの?」

迷子猫探しごときで、どうしてここまで論争しなければいけないのかな、と頭の片隅で考える。
けれど、テズが拘っているのだから仕方がない。

「世界には」

なんとなく、小さな声でつづけた。

「自分たちの力だけでは、どうしようもないことはたくさんあるの」

テズは黙り込んでしまった。
それから、一言二言交わして取り分を決め、別れる。
言い過ぎたかな、なんて思いながら。
分かっているはず。
けれど、心が受け付けない。
よくあること、なんて思いながら。


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